ホーチミン市が沈んでいる──年間5cm沈下が進むベトナム経済の中心地、その原因と未来予測
- ACIMA WORLD NEWS 編集部

- 2025年11月8日
- 読了時間: 4分
ベトナム最大の経済都市、ホーチミン市が今、静かに沈みつつある。衛星観測データによると、同市は年間2〜5センチの速度で地盤沈下を続けており、地区によっては81センチ以上沈下した場所も確認されている。
■ 急速に進むホーチミンの地盤沈下
現地報道(VnExpress, Tuoi Tre News)によると、ビンタン区アンラク地区の文化スポーツセンターでは、壁と地面の間に20センチの隙間が生じ、バドミントンコートや住宅の床に亀裂が走っている。地元住民の証言では、何度補修しても亀裂が広がり、基礎の強化でも沈下は止まらないという。
ベトナム南部水資源計画・調査部(SIWRR)の調査では、2005〜2017年の間に81センチの沈下を記録。これは市平均の約3倍にあたる。
■ 世界でもトップクラスの沈下都市
2022年、シンガポールのナンヤン工科大学(NTU)、米国地質調査所(USGS)、スイス連邦工科大学(ETH Zurich)による国際共同研究が、ホーチミン市を「世界で最も速く沈下する都市のひとつ」に位置づけた。
衛星レーダー(InSAR)を用いた観測では、
年平均沈下速度:1.62cm
世界48沿岸都市のうち44都市が海面上昇率を上回る速度で沈下
という結果が示された。
この速度は、現在の地球全体の海面上昇(年0.37cm)の約5倍に相当する。つまり、地盤の沈下が「海の上昇より速い」という異常な現象が、すでに進行しているのだ。
■ 原因は「地下水の汲み上げ」と「都市の重み」
研究チームによれば、主な原因は以下の二点に集約される。
地下水の過剰汲み上げ → 地中の空隙が減少し、土壌が圧縮される。
高層建築と都市荷重 → 急速な都市化が地盤に静的荷重を与え、弱い層が沈下。
特にホーチミン市は、約1万年前に形成された「若い沖積層(ホロシーン堆積層)」の上に建つため、圧縮に弱く、建物の重みや交通振動が影響しやすいとされる。

■ 影響が深刻な地域
沈下が顕著なエリアとしては、
サイゴン川沿いのタインダ半島
東部のタオディエン地区
南部の7区・ニャーベー地区などが挙げられる。これらは高級住宅地や新興開発地区として人気が高い一方で、海抜1.5メートル以下の低地が多い。
研究者の推定では、沈下がこのまま進行すれば2030年までに約20平方キロメートルが恒常的に冠水する可能性があるという。
■ 2050年、南ベトナムの18%が「海の下」に?
米国の非営利団体Climate Centralの分析では、2100年までに南ベトナムの最大39%(メコンデルタ地域)、ホーチミン市の**約18%**が海面下になる恐れがあると予測されている。
米国海洋大気庁(NOAA)によると、世界の平均海面は1880年以降に21〜24センチ上昇し、直近10年間の上昇速度は年4.3ミリに達している。このまま沈下と海面上昇が同時進行すれば、**“都市型水没”**のリスクは避けられない。
■ 都市が取るべき対策
レ・チョン准教授(ホーチミン市自然資源環境大学)は、都市計画に沈下データの義務的統合を提案している。具体的には、以下の3層構造の洪水制御モデルが推進されている。
保護層(Protection):堤防・潮門・護岸などハードインフラ整備
適応層(Adaptation):貯留池や地下運河を増設し水を逃がす
被害軽減層(Mitigation):道路の嵩上げ、避難システム、早期警報体制
さらに、570km²をカバーする潮汐制御プロジェクト(総工費約1兆ベトナムドン)も進行中だが、土地補償問題により長らく停滞している。
■ 「沈む都市」が問いかけるもの
ホーチミン市の地盤沈下は、もはや局地的な問題ではない。急速な都市成長、地下水依存、そして気候変動という三重の圧力のもとで、アジアの沿岸都市が直面する共通の課題でもある。
日本の東京や大阪も、過去に同様の沈下を経験し、地下水汲み上げの規制や再注入政策で克服した。ホーチミン市がそれに学び、「自然と共生する都市設計」へ転換できるかどうか——その試練は、アジア全体の未来を映している。
🏷 参考出典
VnExpress (Nov 3, 2025)
Tuoi Tre News (Aug 2025)
Nanyang Technological University, USGS, ETH Zurich (2022)
Climate Central (2023)
NOAA Global Sea Level Data (2024)




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