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ホーチミン市が沈んでいる──年間5cm沈下が進むベトナム経済の中心地、その原因と未来予測


ベトナム最大の経済都市、ホーチミン市が今、静かに沈みつつある。衛星観測データによると、同市は年間2〜5センチの速度で地盤沈下を続けており、地区によっては81センチ以上沈下した場所も確認されている。



■ 急速に進むホーチミンの地盤沈下


現地報道(VnExpress, Tuoi Tre News)によると、ビンタン区アンラク地区の文化スポーツセンターでは、壁と地面の間に20センチの隙間が生じ、バドミントンコートや住宅の床に亀裂が走っている。地元住民の証言では、何度補修しても亀裂が広がり、基礎の強化でも沈下は止まらないという。


ベトナム南部水資源計画・調査部(SIWRR)の調査では、2005〜2017年の間に81センチの沈下を記録。これは市平均の約3倍にあたる。



■ 世界でもトップクラスの沈下都市


2022年、シンガポールのナンヤン工科大学(NTU)、米国地質調査所(USGS)、スイス連邦工科大学(ETH Zurich)による国際共同研究が、ホーチミン市を「世界で最も速く沈下する都市のひとつ」に位置づけた。


衛星レーダー(InSAR)を用いた観測では、

  • 年平均沈下速度:1.62cm

  • 世界48沿岸都市のうち44都市が海面上昇率を上回る速度で沈下

という結果が示された。


この速度は、現在の地球全体の海面上昇(年0.37cm)の約5倍に相当する。つまり、地盤の沈下が「海の上昇より速い」という異常な現象が、すでに進行しているのだ。



■ 原因は「地下水の汲み上げ」と「都市の重み」


研究チームによれば、主な原因は以下の二点に集約される。

  1. 地下水の過剰汲み上げ → 地中の空隙が減少し、土壌が圧縮される。

  2. 高層建築と都市荷重 → 急速な都市化が地盤に静的荷重を与え、弱い層が沈下。

特にホーチミン市は、約1万年前に形成された「若い沖積層(ホロシーン堆積層)」の上に建つため、圧縮に弱く、建物の重みや交通振動が影響しやすいとされる。



2015年から現在までの地盤沈下速度を示す観測結果
レ・チュン・チョン准教授の研究グループは、今年8月末にホーチミン市の2015年から現在までの地盤沈下速度を示す観測結果を発表した。 地図上で赤く表示された部分は沈下の進行が速い地域を示している。(写真提供:研究チーム)

■ 影響が深刻な地域


沈下が顕著なエリアとしては、

  • サイゴン川沿いのタインダ半島

  • 東部のタオディエン地区

  • 南部の7区・ニャーベー地区などが挙げられる。これらは高級住宅地や新興開発地区として人気が高い一方で、海抜1.5メートル以下の低地が多い。

研究者の推定では、沈下がこのまま進行すれば2030年までに約20平方キロメートルが恒常的に冠水する可能性があるという。



■ 2050年、南ベトナムの18%が「海の下」に?


米国の非営利団体Climate Centralの分析では、2100年までに南ベトナムの最大39%(メコンデルタ地域)、ホーチミン市の**約18%**が海面下になる恐れがあると予測されている。

米国海洋大気庁(NOAA)によると、世界の平均海面は1880年以降に21〜24センチ上昇し、直近10年間の上昇速度は年4.3ミリに達している。このまま沈下と海面上昇が同時進行すれば、**“都市型水没”**のリスクは避けられない。



■ 都市が取るべき対策


レ・チョン准教授(ホーチミン市自然資源環境大学)は、都市計画に沈下データの義務的統合を提案している。具体的には、以下の3層構造の洪水制御モデルが推進されている。

  1. 保護層(Protection):堤防・潮門・護岸などハードインフラ整備

  2. 適応層(Adaptation):貯留池や地下運河を増設し水を逃がす

  3. 被害軽減層(Mitigation):道路の嵩上げ、避難システム、早期警報体制

さらに、570km²をカバーする潮汐制御プロジェクト(総工費約1兆ベトナムドン)も進行中だが、土地補償問題により長らく停滞している。



■ 「沈む都市」が問いかけるもの


ホーチミン市の地盤沈下は、もはや局地的な問題ではない。急速な都市成長、地下水依存、そして気候変動という三重の圧力のもとで、アジアの沿岸都市が直面する共通の課題でもある。

日本の東京や大阪も、過去に同様の沈下を経験し、地下水汲み上げの規制や再注入政策で克服した。ホーチミン市がそれに学び、「自然と共生する都市設計」へ転換できるかどうか——その試練は、アジア全体の未来を映している。



🏷 参考出典

  • VnExpress (Nov 3, 2025)

  • Tuoi Tre News (Aug 2025)

  • Nanyang Technological University, USGS, ETH Zurich (2022)

  • Climate Central (2023)

  • NOAA Global Sea Level Data (2024)

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