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🌞 3I/ATLASは太陽の熱で崩壊したのか?──アヴィ・ローブ博士が語る「自然天体」仮説の限界

3I/Atlasの深層合成画像
2025年11月9日、世界時5時08分から5時22分の間に、2台の望遠鏡を使用し、各3分間露出の5枚の画像を合成して得られた3I/ATLASの深層合成画像。太陽の方向は左下に位置しています。(提供:Frank Niebling および Michael Buechner)

執筆:ACIMA WORLD NEWS 編集部




1. 太陽近くで起きた“異変”


恒星間天体 3I/ATLAS(アトラス彗星) に、また新たな異変が起きたようです。


ハーバード大学の天体物理学者 アヴィ・ローブ(Avi Loeb)博士 は、最新記事 “でこの天体が太陽近くで部分的に崩壊した可能性を示唆しました。


博士はまず「できるだけ保守的な立場」──つまり“3I/ATLASはあくまで自然な彗星である”という前提──から議論を始めています。


そのうえで、最新のポスト近日点(perihelion)画像をもとに、3I/ATLASの性質と太陽加熱の影響を数値的に検証しています。



2. 「1か月で質量の16%を失った」可能性


ローブ博士は、先日11月9日に報告された最新の高解像度画像(Frank Niebling氏とMichael Buechner氏による撮影)を解析し、3I/ATLASの反対尾(anti-tail)と尾(tail jet)がそれぞれ約100万kmと300万kmに伸びていることを確認しました。


博士は次のように計算しています:


  • 天然彗星のガス放出速度:約0.4 km/秒

  • これに基づく放出持続時間:1〜3か月

  • 太陽風が反対尾を押し止める距離:約100万km

  • その距離での質量密度:数百万個の陽子質量/cm³


これをもとに、1辺100万kmの範囲での質量流束(mass flux)を求めると、

月あたり50億トンに相当するガスが放出されていると推定されます。


博士は以前の研究で、3I/ATLAS全体の質量を330億トン以上と算出しており、

したがって全質量の約16%が失われた計算になります。


これは、近日点付近で観測された「非重力加速」を説明する値とも整合しているといいます。



3. エネルギー計算が示す“矛盾”


ここで博士は、太陽から受け取るエネルギー量と、実際に放出された物質量を照らし合わせます。


二酸化炭素(CO₂)氷の昇華には1gあたり約600 Jが必要です。

一方、水氷(H₂O)の場合は約2,835 J──5倍近く多い。


ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の分光データによると、

近日点の2.4倍遠い位置で観測された3I/ATLAS周辺のガスのうち、87%がCO₂でした。


博士は「この比率が近日点でも続いた」と仮定し、月間で50億トンのCO₂を昇華させるためには、3×10¹⁸ J(ジュール)のエネルギーが必要になると計算しました。


しかし、太陽から3I/ATLASが受ける放射エネルギーは1平方メートルあたり700 J/秒。このエネルギーでCO₂をこれだけ昇華させるには、1,600平方キロメートル以上の吸収面積が必要です。


これは直径約23 kmの球体に相当します。

ところが、ハッブル宇宙望遠鏡の観測では、3I/ATLASの直径は最大5.6 kmと推定されています。仮に水氷を主成分とするなら、必要直径は51 kmにもなります。


博士はここでこう言い放ちます:


“Houston, we have a problem.”

(ヒューストン、問題だ──自然彗星モデルでは説明がつかない。)



4. 「太陽で爆発した」可能性


この熱的矛盾を解消するもっとも単純な説明は──


3I/ATLASが太陽の熱で破壊・分裂したという仮説です。


もし表面積が16倍に増加したのだとすれば、

これは少なくとも16個以上の同規模破片に分裂したことを意味します。


博士はこれを「爆発的な分(disintegration)」と表現し、私たちは太陽近傍で起きた“星間花火”を目撃しているのかもしれないと述べています。


今後数週間で太陽の潮汐力により、これらの破片はさらに分離していくと予想され、その姿は1994年に木星へ衝突したシューメーカー=レヴィ第9彗星に似たものになる可能性があると指摘しています。



5. それでも「崩壊していなかった」としたら?


もし今後の観測で、3I/ATLASが崩壊しておらず、

依然として単一の天体として存在していることが確認されれば──


博士は「それはもはや自然彗星では説明できない」と述べています。


2025年12月19日、3I/ATLASは地球へ最接近します。

このとき、地上望遠鏡・ハッブル・ウェッブによる観測が集中する見込みです。


その結果が「3I/ATLASが一体なのか、崩壊したのか」、あるいは「自然か人工か」を判断する決定打になると博士は述べています。



6. 再び浮かび上がる“異常”の本質


博士は今回の論文の最後で、以前から指摘している「最初の異常点」に再び触れています。


「3I/ATLASの質量は、1I/オウムアムアの100万倍。

このような巨大天体が、私たちの観測期間(わずか10年)に太陽系へ飛び込む確率は1億分の1以下にすぎない。」


この確率の低さに加え、3I/ATLASの逆行軌道が黄道面に5度以内という点も不自然です。

自然天体モデルでは説明が極めて難しい――

博士は改めてそう結論づけています。



7. 「人工的推進」仮説の再浮上


ローブ博士は、技術的起源(technological origin)の可能性についても改めて触れます。


「化学ロケットの排気速度は3〜5 km/秒。イオンスラスターでは10〜50 km/秒。もし地球外の技術がこれを超える排気速度を持っていれば、必要な質量損失は自然彗星の数百分の一で済む。」


つまり、同じ観測結果でも“人工的推進装置”であれば説明できる、というのです。


博士は、今後の分光観測によるジェット成分分析が、この仮説を検証する鍵になるとしています。



8. 「学ぶ謙虚さこそ科学の核心」


記事の結びで博士はこう語ります。


“The foundation of pioneering scientific research is the humility to learn rather than the arrogance of expertise.”

「先駆的な科学研究の基礎とは、“専門家の傲慢さ”ではなく、“学び続ける謙虚さ”にある。」


アシーマとしても、この言葉には深く共感します。


科学の最前線で起きていることを、正確に、そして誰もが読める日本語で届けること。


それが私たちの使命です。



🌍 まとめ


太陽の熱によって“爆発的に崩壊”した可能性と、それでもなお「人工的な推進装置かもしれない」という仮説。


3I/ATLASは、ただの天体ではなく、「宇宙とは何か」を問う鏡のような存在になりつつあります。


12月19日の地球最接近まで、世界中の望遠鏡がこの天体に注目しています。


アシーマブログでは、引き続き3I/ATLASの観測・分析・議論を追い続けていきます。



株式会社アシーマより


株式会社アシーマ(Acima Corporation)は、科学・テクノロジー・文化・宇宙など「世界を正確に伝える」翻訳・編集・ローカリゼーションの専門会社です。言葉を通して、まだ見ぬ世界と日本をつなぎます。


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