🌞 3I/ATLASは太陽の熱で崩壊したのか?──アヴィ・ローブ博士が語る「自然天体」仮説の限界
- ACIMA WORLD NEWS 編集部

- 3 日前
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執筆:ACIMA WORLD NEWS 編集部
1. 太陽近くで起きた“異変”
恒星間天体 3I/ATLAS(アトラス彗星) に、また新たな異変が起きたようです。
ハーバード大学の天体物理学者 アヴィ・ローブ(Avi Loeb)博士 は、最新記事 “でこの天体が太陽近くで部分的に崩壊した可能性を示唆しました。
博士はまず「できるだけ保守的な立場」──つまり“3I/ATLASはあくまで自然な彗星である”という前提──から議論を始めています。
そのうえで、最新のポスト近日点(perihelion)画像をもとに、3I/ATLASの性質と太陽加熱の影響を数値的に検証しています。
2. 「1か月で質量の16%を失った」可能性
ローブ博士は、先日11月9日に報告された最新の高解像度画像(Frank Niebling氏とMichael Buechner氏による撮影)を解析し、3I/ATLASの反対尾(anti-tail)と尾(tail jet)がそれぞれ約100万kmと300万kmに伸びていることを確認しました。
博士は次のように計算しています:
天然彗星のガス放出速度:約0.4 km/秒
これに基づく放出持続時間:1〜3か月
太陽風が反対尾を押し止める距離:約100万km
その距離での質量密度:数百万個の陽子質量/cm³
これをもとに、1辺100万kmの範囲での質量流束(mass flux)を求めると、
月あたり50億トンに相当するガスが放出されていると推定されます。
博士は以前の研究で、3I/ATLAS全体の質量を330億トン以上と算出しており、
したがって全質量の約16%が失われた計算になります。
これは、近日点付近で観測された「非重力加速」を説明する値とも整合しているといいます。
3. エネルギー計算が示す“矛盾”
ここで博士は、太陽から受け取るエネルギー量と、実際に放出された物質量を照らし合わせます。
二酸化炭素(CO₂)氷の昇華には1gあたり約600 Jが必要です。
一方、水氷(H₂O)の場合は約2,835 J──5倍近く多い。
ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の分光データによると、
近日点の2.4倍遠い位置で観測された3I/ATLAS周辺のガスのうち、87%がCO₂でした。
博士は「この比率が近日点でも続いた」と仮定し、月間で50億トンのCO₂を昇華させるためには、3×10¹⁸ J(ジュール)のエネルギーが必要になると計算しました。
しかし、太陽から3I/ATLASが受ける放射エネルギーは1平方メートルあたり700 J/秒。このエネルギーでCO₂をこれだけ昇華させるには、1,600平方キロメートル以上の吸収面積が必要です。
これは直径約23 kmの球体に相当します。
ところが、ハッブル宇宙望遠鏡の観測では、3I/ATLASの直径は最大5.6 kmと推定されています。仮に水氷を主成分とするなら、必要直径は51 kmにもなります。
博士はここでこう言い放ちます:
“Houston, we have a problem.”
(ヒューストン、問題だ──自然彗星モデルでは説明がつかない。)
4. 「太陽で爆発した」可能性
この熱的矛盾を解消するもっとも単純な説明は──
3I/ATLASが太陽の熱で破壊・分裂したという仮説です。
もし表面積が16倍に増加したのだとすれば、
これは少なくとも16個以上の同規模破片に分裂したことを意味します。
博士はこれを「爆発的な分(disintegration)」と表現し、私たちは太陽近傍で起きた“星間花火”を目撃しているのかもしれないと述べています。
今後数週間で太陽の潮汐力により、これらの破片はさらに分離していくと予想され、その姿は1994年に木星へ衝突したシューメーカー=レヴィ第9彗星に似たものになる可能性があると指摘しています。
5. それでも「崩壊していなかった」としたら?
もし今後の観測で、3I/ATLASが崩壊しておらず、
依然として単一の天体として存在していることが確認されれば──
博士は「それはもはや自然彗星では説明できない」と述べています。
2025年12月19日、3I/ATLASは地球へ最接近します。
このとき、地上望遠鏡・ハッブル・ウェッブによる観測が集中する見込みです。
その結果が「3I/ATLASが一体なのか、崩壊したのか」、あるいは「自然か人工か」を判断する決定打になると博士は述べています。
6. 再び浮かび上がる“異常”の本質
博士は今回の論文の最後で、以前から指摘している「最初の異常点」に再び触れています。
「3I/ATLASの質量は、1I/オウムアムアの100万倍。
このような巨大天体が、私たちの観測期間(わずか10年)に太陽系へ飛び込む確率は1億分の1以下にすぎない。」
この確率の低さに加え、3I/ATLASの逆行軌道が黄道面に5度以内という点も不自然です。
自然天体モデルでは説明が極めて難しい――
博士は改めてそう結論づけています。
7. 「人工的推進」仮説の再浮上
ローブ博士は、技術的起源(technological origin)の可能性についても改めて触れます。
「化学ロケットの排気速度は3〜5 km/秒。イオンスラスターでは10〜50 km/秒。もし地球外の技術がこれを超える排気速度を持っていれば、必要な質量損失は自然彗星の数百分の一で済む。」
つまり、同じ観測結果でも“人工的推進装置”であれば説明できる、というのです。
博士は、今後の分光観測によるジェット成分分析が、この仮説を検証する鍵になるとしています。
8. 「学ぶ謙虚さこそ科学の核心」
記事の結びで博士はこう語ります。
“The foundation of pioneering scientific research is the humility to learn rather than the arrogance of expertise.”
「先駆的な科学研究の基礎とは、“専門家の傲慢さ”ではなく、“学び続ける謙虚さ”にある。」
アシーマとしても、この言葉には深く共感します。
科学の最前線で起きていることを、正確に、そして誰もが読める日本語で届けること。
それが私たちの使命です。
🌍 まとめ
太陽の熱によって“爆発的に崩壊”した可能性と、それでもなお「人工的な推進装置かもしれない」という仮説。
3I/ATLASは、ただの天体ではなく、「宇宙とは何か」を問う鏡のような存在になりつつあります。
12月19日の地球最接近まで、世界中の望遠鏡がこの天体に注目しています。
アシーマブログでは、引き続き3I/ATLASの観測・分析・議論を追い続けていきます。
●株式会社アシーマより●
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