イギリスってどんな国?
日本と同じ島国であるイギリス。国土は日本の3分の2程度で、本州と四国と合わせた大きさとだいたい同じです。そこには日本の人口の約半分、6600万の人々が暮らしています。
イギリス料理の特徴は、メイン料理の横によくじゃがいもが添えられること。揚げたり、茹でたり、焼いたりしたバリエーション豊富なじゃがいもが食卓に並びます。大ヒットした小説「ハリー・ポッター」の舞台もイギリスで、おいしそうな料理がたくさん登場します。その中にもマッシュポテト、フライドポテト、ベイクドポテトなど、多種多様な方法で調理されたじゃがいもが出てきます。
またイギリス料理では「フル・イングリッシュ・ブレックファスト」と呼ばれる朝食がボリューミーかつおいしいことで知られています。「イギリスでおいしいものを食べたければ、1日に3回朝食を食べればいい」と言われるほどで、目玉焼きなどの卵料理、大きなソーセージ、ベーコン、ポテト、トマト、ベイクドビーンズ、トーストなどがワンプレートから溢れんばかりに盛り付けられます。このような朝食のスタイルが定着したのは、19世紀のヴィクトリア朝のころ。当時のヴィクトリア女王が遅い時間に夕食をとることを好んだため、それに合わせて食事の時間がスライドされていきました。朝からたっぷり食事をとることは重労働の農家にとっても好都合でしたし、上流・中流家庭からも歓迎されました。時代は移り変わり、最近では簡単な朝食がよく食べられているようです。トーストにジャムをつけたものやポリッジ(オーツ麦を牛乳で煮込んだおかゆ)、シリアルなどが定番となっています。カロリーやコレステロールの高いイングリッシュ・ブレックファストは、週末のみの贅沢となっている様子です。
「あたし、このパイ嫌いなのよね」あのパイは本当においしくない?
宮崎駿監督が手掛けるジブリ映画は、「ジブリ飯」という言葉を生んだほど料理の描写に力を入れています。誰しも一度は「ジブリの映画に出てくるごはんを食べてみたい」と思ったことがあるのではないでしょうか。その中でも「どんな味なんだろう?」と気になるのが、「魔女の宅急便」に出てくるかぼちゃとニシンのパイだと思います。魚の形にかたどられ、オーブンでこんがり焼かれたパイ。おばあちゃんが丹精込めて作ったそのパイは、主人公のキキによって孫娘の家まで運ばれます。激しい雨に打たれながらも、キキは温かいパイが冷めないように必死で守り抜きます。やっとの思いでパイを届けますが、孫娘はそっけなく「あたし、このパイ嫌いなのよね」と言い放つのでした……。
さて、このパイは一体どんな味をしているのでしょうか? 実際に食べた人によると、かぼちゃの甘み、ニシンの苦み、そしてホワイトソースのまろやかさが合わさっておいしいようです。しかし甘みと苦みが喧嘩をしていると感じられたり、ニシンの生臭さが苦手だったりする人もいる様子。魚とかぼちゃを一緒に食べる習慣がない場合は、チャレンジするのに勇気のいる料理なのかもしれません。
イギリスのコーンウェル地方に、モデルになったと言われているパイがあります。その名も「スターゲイジーパイ」。「星を見上げるパイ」というとてもロマンティックな名称です。しかしこのパイ、パイ生地に魚が突き刺さってあちこちから魚の頭や尻尾が飛び出ているという衝撃的な見た目をしています。そう、魚が星を見上げているパイなのです。とはいえ、このパイは遊びで作られたものではありません。トム・バーコックという男性の勇気ある行動を称えるために作られたものなのです。
その昔、イギリスのある漁村は飢えで苦しんでいました。12月23日というクリスマスを間近に控えた日であるのに、悪天候が続いて船が出せず、魚が取れなかったのです。そこでトム・バーコックという男性が嵐の中、船を漕ぎ出します。村人が心配する中、彼は村人全員がお腹を満たせるだけの魚を取って帰ってきました。そんな彼の勇気に感服した村人は、早速彼が命がけで取ってきてくれた魚で料理を作ります。その際にちゃんと魚が入っていることが分かるよう、パイから魚の頭や尻尾を飛び出させたのです。これがスターゲイジーパイの由来だといわれています。今でも12月23日はトム・バーコックス・イブと呼ばれ、この日にはこのパイを食べるのが習わしとなっています。ただイギリスの一部地域でしか食べられておらず、しかも12月23日限定の料理ということなので、旅行先でふらりと立ち寄って食べることのできる料理ではなさそうです。どうしても食べたい場合は下調べをきちんとして、12月23日にこのパイを出しているホテルや民宿へ足を運ぶようにしましょう。
イギリスのクリスマス、定番のスイーツは?
日本のクリスマスの定番といえば、真っ赤ないちごと真っ白な生クリームのコントラストが美しいショートケーキですね。イギリスでもショートケーキは食べられるものの、夏のお菓子として認識されています。イギリスのクリスマスは、真っ黒なクリスマス・プディングを食べるのが定番。小麦粉に砂糖、牛脂や卵、ドライフルーツやナッツ、香辛料など13種類の材料を入れ、蒸し上げて作るお菓子です。蒸し上がってすぐに食べるのではなく、そこから少し寝かせて熟成させます。熟成させればさせるほどドライフルーツが発酵してアルコール分が増え、おいしくなると言われているので「クリスマス・プディングを食べ終えたら、すぐに来年のクリスマス・プディングを作り始めたほうが良い」という説もあるほどです。食べる直前には湯煎したり蒸したりして温め、熱したブランデーをかけてフランベします。ラム酒かブランデーの入ったバターを付けて食べるのが一般的で、好みによってはカスタードクリームやホイップクリームを付けて食べる人もいます。
クリスマス・プディングの生地を混ぜるのは家族総出で行います。1人1回ずつ時計回りに生地をかき混ぜ、その際には願い事をします。このとき、生地に指輪や指ぬき、コインなどを入れる習慣もあります。出来上がってクリスマス・プディングを切り分けたとき、どんな小物が当たったかで運勢を占うのです。
イギリスのクリスマスに欠かせないもう一つのお菓子が、ミンスパイです。スパイスの効いたドライフルーツが詰まったパイで、甘く味付けされています。12月になるとイギリスのどこでもこのミンスパイを見ることになります。ハリー・ポッターシリーズの中にも、主人公のハリーがミンスパイを12個プレゼントされるシーンがあります。1人用のプレゼントにしては多いような、と思う方もいるでしょう。ミンスパイには12月25日から1月6日までの12日間、1日一つずつ食べることで新年に幸福が訪れるという言い伝えがあるのです。つまり、12個のミンスパイをプレゼントすることには「あなたの来年が良い年でありますように」という祈りの気持ちも込められているのですね。またジブリ映画「天空の城ラピュタ」でも、登場人物の1人の大好物がミンスパイだと設定されています。
甘いプディング、甘くないプディング
クリスマス・プディングのほかにも、イギリスにはさまざまなプディングがあります。イギリスの食文化を語るうえで欠かせないプディングですが、一体どういう食べ物をプディングと呼ぶのでしょうか。プディングとは蒸したり、ゼラチンで固めたりする料理の総称です。またレストランのメニューで「Pudding」とあれば、それはデザート全般のことを指しています。ではプディングはすべて甘いものかというと、そういうわけでもありません。ローストビーフの付け合せに使うヨークシャー・プディングや、朝ごはんなどで食べられるブラックプディングのように甘くないものもたくさんあります。
ヨークシャー・プディングはもちもちふわふわとした食感で、シュークリームの皮に似ています。ローストビーフと一緒にソースを付けて食べるプディングです。ブラックプディングは、日本で言うところのブラッドソーセージ。その名の通り、血液を加えた黒っぽいソーセージです。これは朝ごはんの定番として知られています。
甘いプディングといえば、トライフルが有名です。トライフルとは「つまらないもの」という意味ですが、イギリス人にとっては懐かしいふるさとの味であったり、両親がよく作ってくれた定番のおやつであったりします。家にあるもので簡単に作ることができるので、謙遜の意味も込めて「つまらないもの」という名前なのでしょう。その作り方はフルーツ、ジュースやシロップを染み込ませたスポンジ、カスタードクリーム、ホイップクリームを積み重ねていくだけ。きれいに重なっている様子が見えるよう、ガラスの器に盛り付けます。そのときスポンジにリキュールを染み込ませれば、大人の味のトライフルの出来上がり。ちょっとしたパーティから、クリスマスのような盛大な行事のときにまで、お祝い事にはトライフルがつきものなのです。トライフル用のスポンジやカスタードクリームはスーパーに売っていますから、それを買って好きなフルーツを飾れば立派なトライフルが完成します。もっと手軽に作りたいときは、トライフルの素を活用します。少々ジャンクな味にはなりますが、これが大好きというイギリス人もいます。
おいしくて見た目もかわいい、アフタヌーンティー
イギリス人は紅茶が大好き。1日に7,8回紅茶を飲む人も珍しくありません。朝起きたとき、ごはんを食べながら、ちょっと気分転換に、来客時に……とさまざまなタイミングで紅茶を口にします。そんな紅茶文化を語るうえで欠かせないのが、アフタヌーンティーです。かつての英国貴族は、社交の場としてアフタヌーンティーを活用していました。ただお客を家に招いておしゃべりをしていただけだと思うのは大間違い。そこでは主催者のセンスや格が問われ、インテリア、料理、話題の選び方、礼儀作法などが厳しくチェックされる場でもあったのです。
そのアフタヌーンティーで出される伝統的な料理の一つに、きゅうりのサンドイッチがあります。当時、農産品を輸入に頼っていたイギリス。特にきゅうりはイギリスの気候で育ちにくかったので、高級品とされていました。もしイギリス国内で新鮮なきゅうりを食べようと思ったならば、広大な土地や温室を持っている必要がありました。すなわち、きゅうりのサンドイッチでお客をもてなすことは英国貴族の豊かさのアピールとなっていたのです。酢漬けにしたきゅうりを挟んだシンプルなサンドイッチは、今でもイギリス人に愛されています。
また紅茶に合うお菓子としてイギリスで人気なのが、ファッジです。ファッジは砂糖とバターと牛乳というシンプルな材料で作られており、とても甘いのが特徴。見た目はキャラメルに似ていますが、口に入れるとほろりと崩れます。キャラメルやナッツなどで味に変化をつけることもあり、イギリスではファッジ専門店があるほどポピュラーなお菓子です。
イギリスの食文化をご紹介してまいりましたが、いかがでしたか? イギリス料理はおいしくないというイメージもありますよね。その原因は食中毒を防ぐためにどんな食材でも火を通しすぎること、そして味付けをほとんどしないことにあると考えられます。調味料が貴重品だった時代、客人には食卓で好きなだけ塩やコショウを使ってもらうことがイギリス流のおもてなしだったのです。その名残で未だにイギリス料理はあまり味付けをせず、食卓で好みに合わせて調味するというのが主流になっています。おいしくないというよりも、味が薄いといったほうが正しいかもしれませんね。さらに最近ではイギリスでもミシュランガイドで星を獲得するほどおいしいレストランが誕生しています。ぜひ自分の好みのイギリス料理を探してみてください。
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