生命の材料は宇宙の「岩の表面」でできる? 星間塵の鉱物が有機分子を生む新たな計算結果
地球や宇宙の生命は、どこから来たのでしょうか。その問いに関係する小さな分子の生成過程について、2026年11月5日(日本時間)、新しい計算研究が公開されました。
研究対象は「ホルムアミド(formamide)」という有機分子です。アミノ酸やRNAの材料につながる化学反応で重要視される分子について、星や惑星を生み出す塵の鉱物表面が、その形成を助け得ることが理論的に示されました。生命やRNAを宇宙で発見したというニュースではありません。
【画像】若い恒星を取り囲む原始惑星系円盤の想像図。Credit: NASA/JPL-Caltech/STScI。2024年の資料画像で、今回の研究で計算したホルムアミド生成現象を直接撮影したものではありません。
ホルムアミドとは何か
ホルムアミドは炭素、酸素、窒素、水素からできた比較的単純な有機化合物です。生命の起源を研究する分野では、より複雑な生体関連分子へつながり得る反応の材料として注目されてきました。
ただし、ホルムアミドがあることと、生命が存在することは同じではありません。また、ホルムアミドから実際にRNAが生成されるには、別の多段階の反応と環境条件が必要です。
宇宙の塵は、単なる「汚れ」ではない
恒星が生まれる場所や原始惑星系円盤には、ガスとともに微小な固体粒子が漂っています。その一部を構成するのが、ケイ素やマグネシウムを含む鉱物です。
イタリアの研究者Dario Campisi氏は、カンラン石の主要な鉱物であるフォルステライト(Mg2SiO4)の特定の結晶面と、マグネシウムを含む水和モデルを使い、ホルムアミド生成につながる反応が起こり得るかを量子化学計算で調べました。原始惑星系円盤にある裸の鉱物粒子を想定したモデルです。
表面が反応の進み方を変える
研究では、アミド基に由来する反応性の高いNH2とホルムアルデヒド(H2CO)が結びつき、途中の反応体から水素原子に相当するプロトンの移動が進む過程を検討しています。
フォルステライトの(010)面については、NH2が特定の位置に弱く吸着している条件の下で、ホルムアルデヒドへの付加が、計算上はエネルギー障壁を必要としない経路として現れました。その後のプロトン移動を経て、ホルムアミドが形成される可能性が示されています。
もう一つのMg(OH)2・H2Oモデルでは、マグネシウムに結び付いたOH基が反応途中のプロトン移動を助けると計算されました。約300Kに近い条件では、特定の反応段階がナノ秒程度の時間尺度で進み得るとの推算もあります。これは宇宙のあらゆる低温環境でも同じ速度になるという意味ではありません。
なぜ「岩の表面」が重要なのか
生命材料の宇宙化学では、気体中での反応や、氷で覆われた塵の表面での反応がよく研究されてきました。今回の論文が調べたのは、氷に覆われていないケイ酸塩の表面や、マグネシウムを含む分子モデルが、反応そのものをどのように変えるかという点です。
もしこうした反応経路が実際の環境でも重要なら、原始惑星系円盤のどこで有機分子が生まれやすいのかを考える材料になります。研究者は、宇宙化学モデルへ組み込める反応速度の情報を提供したとしています。
何が実証され、何が未解決なのか
今回の研究は密度汎関数理論(DFT)による計算です。実験室で塵にホルムアミドを作らせた観測結果ではなく、望遠鏡が新たなホルムアミドを検出した報告でもありません。
宇宙の塵にはさまざまな温度、表面構造、氷の被覆、放射線の影響があります。計算上有利な反応経路が見つかっても、反応物が実際に十分な量で出会うのか、生成物が分解せず残るのか、ほかの反応が優先されないかを確かめる必要があります。
AWN独自分析――生命探査では「どこで作られたか」を問う
地球外生命を探すとき、私たちはつい完成した細胞や生物の存在を思い浮かべます。しかし生命に至るまでには、有機分子が生まれ、濃縮され、反応を重ね、複雑さを増すという過程があります。
今回の研究が提案しているのは、宇宙の鉱物粒子を化学反応の足場として見る視点です。惑星ができる前の塵が生命関連分子の生成に関与していたとすれば、生命の材料を探す場所は惑星の表面だけに限りません。
もちろん、生命そのものの起源を説明したことにはなりません。現時点では仮説を検証するための計算上の手掛かりですが、今後の実験や天文観測につながる研究として注目できます。
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一次資料
【編集部注】原論文は学術誌『Astronomy & Astrophysics』に掲載受理されたと記されていますが、ここで解説したのは2026年11月に公開された著者の原稿です。理論計算の結果を、観測による生命発見と混同しないでください。調査基準日:2026年11月8日。





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