白色矮星に「二重のガス円盤」 異例の4峰スペクトルを検出、2天体の存在を示唆
恒星が寿命を迎えた後も、その周囲では惑星系の残骸が複雑な構造を保っているのかもしれない。
国際研究チームは、白色矮星「WD J1328–1450」の周囲に、互いに離れた2つのガス円盤が存在すると考えられる観測結果を発表した。研究成果は2026年10月26日、学術誌『Nature Astronomy』に掲載された。
これまで知られていた同種の白色矮星とは異なり、観測された光のスペクトルには4つのピークが現れた。研究チームは、この特徴を2つのガス円盤で説明し、それぞれの円盤を維持する小天体が存在する可能性を指摘している。
白色矮星とは何か――恒星が残した「核」
白色矮星とは、太陽のような比較的質量の小さい恒星が進化の最終段階で外層を失った後に残る、高密度の天体である。
恒星が白色矮星になる過程では、もともとの惑星系も大きな変化を受ける。惑星や小惑星の軌道が変わり、天体同士の衝突や、白色矮星の強い重力による破壊が起こり得る。
しかし、惑星を構成していた物質がすべて消えるわけではない。
実際、多くの白色矮星では、周囲に残った塵の円盤や、惑星由来と考えられる元素が観測されている。こうした痕跡は、恒星の進化後に惑星系がどう変化したかを探る重要な手掛かりとなる。
これまでの常識と異なる「4つのピーク」
今回の研究で注目されたのは、WD J1328–1450から得られた光のスペクトルである。
研究チームは、チリにある欧州南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLTに搭載された分光装置「X-shooter」を使い、2021年と2023年に取得したデータなどを分析した。

通常、白色矮星を取り巻く回転ガス円盤からの光には、2つのピークが現れる。円盤の片側は観測者に近づき、反対側は遠ざかるため、それぞれの光がドップラー効果によって異なる波長にずれるからだ。
これまで報告されていた21例のガス円盤では、いずれもこうした2峰構造が見られていた。
ところがWD J1328–1450では、カルシウムや酸素の輝線に4つのピークが現れた。
研究チームは、異なる距離を公転する2つのガス円盤からの光が重なれば、この異例のスペクトルを説明できると考えた。
2つのガス円盤はどこにあるのか
論文で示されたモデルによると、ガスは白色矮星の周囲に連続して分布するのではなく、内側と外側の2領域に分かれている。
内側の円盤は、白色矮星の中心から太陽半径の約0.14〜0.34倍の距離にあると推定された。
外側の円盤は、太陽半径の約0.54〜1.93倍の距離に広がる。

つまり、2つの円盤の間には、ガスからの発光が弱い空白の領域が存在することになる。
こうした構造は、従来の白色矮星のガス円盤モデルでは簡単に説明できない。
ガスが発生した後、円盤全体に広がるのであれば、なぜ2つの領域が分離した状態を保てるのか。その仕組みが新たな研究課題になった。
内側と外側では、物質の組成も異なる可能性
今回の発見は、円盤が二重になっているという構造上の特徴だけではない。
研究チームは、内側と外側で観測される元素の特徴にも違いがあることを示した。
特に注目されるのが、マグネシウムとカルシウムの関係だ。
もし両方の円盤が同じ元素組成を持つなら、外側の円盤からも一定の強さのマグネシウム輝線が検出されるはずだった。しかし、予測された輝線は観測されなかった。
この結果は、外側の円盤では内側と比べてマグネシウムが少ないことを示している。
考えられる説明の一つは、2つの円盤が異なる天体の残骸に由来するというものだ。
一方、もともと一つだった天体の地殻とマントルのように、組成が異なる層から物質が供給された可能性もある。
したがって、元素組成の違いだけで、2つの独立した天体の存在が証明されたわけではない。
小惑星から冥王星級まで――2つの天体が円盤を維持しているのか
研究チームが有力な説明として挙げるのは、2つの小天体が、それぞれ異なる軌道で塵と相互作用し、ガスを供給しているという仮説だ。
白色矮星の近くでは強い潮汐力が働くため、天体が壊されずに残るには、密度や内部の強度が重要になる。
論文では、想定する材質や軌道によって、内側には比較的小さな小惑星規模の天体が、外側にはさらに大きな天体が存在できる可能性が検討されている。
条件によっては、外側の天体は冥王星に匹敵する大きさにもなり得る。
ただし、ここで重要なのは、研究チームが2つの天体を直接撮影したわけではないという点だ。
実際に観測されたのは、特殊な光のスペクトルと、周囲の物質に由来する赤外線の特徴である。天体の数や大きさについては、これらを説明するための物理モデルに基づく推定となる。
ほかの説明は考えられないのか
研究チームは、2つの独立した円盤以外の可能性も検討している。
例えば、単一の円盤であっても、立体的に広がった構造が光を遮ることで、観測上は2つの領域に分かれて見える可能性がある。
ただし論文では、今回の構造を十分に説明できる既存の物理モデルはないとしている。
また、観測された天体が実際には2つの白色矮星から成る連星で、それぞれが円盤を持つ可能性も検討された。しかし、そのような状態が同時に成立する確率は非常に低いと評価された。
現時点では、2つの小天体がガスを供給しているという説明が有力な候補とされているものの、形成過程の決着にはさらなる研究が必要だ。
恒星の死後にも、惑星系は複雑な進化を続ける
今回の研究が興味深いのは、惑星系の進化が、中心となる恒星の寿命とともに終わるわけではないことを改めて示した点にある。
若い恒星の周囲では、惑星が形成される過程で円盤に溝やリングが生じることが知られている。
一方、白色矮星の周囲にある円盤は、惑星形成の材料というより、かつて存在した惑星系が崩壊・再配置された後の残骸と考えられる。
その両者に似たリング構造が現れるという事実は、惑星系が形成される過程と、終末期を迎えた後の過程に、共通する物理的な仕組みが働いている可能性を示す。
今回の観測は、地球外生命の存在を示すものではない。しかし、恒星が大きく変化した後も、どのような天体が生き残り、どのような軌道や物質分布を維持できるのかという、惑星系研究の根本的な問題につながっている。
今後の焦点は「見えない天体」をどう検証するか
研究チームの仮説をさらに確かめるには、スペクトルの時間変化を継続的に調べることが重要になる。
もし特定の小天体が円盤内で塵と相互作用しているなら、その公転や衝突現象に対応した周期的な変化が観測される可能性がある。
また、ガス円盤の組成や分布をより精密に測定できれば、異なる天体から物質が供給されたのか、それとも別の仕組みで二重構造が形成されたのかを絞り込める。
恒星が白色矮星になった後、その周囲で何が残り、何が壊れ、何が新たな構造をつくるのか。
WD J1328–1450は、その過程を探る新しい観測対象となった。
一次情報
Gentile Fusillo, N. P., Lagos-Vilches, F., Gänsicke, B. T. et al. (2026). A double debris disc around a white dwarf sculpted by two planetary bodies. Nature Astronomy. 2026年10月26日公開。





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