国連、2035年の排出削減を現行目標で「2019年比6%」と試算 COP31前に実行の壁
各国の気候対策が経済全体に広がる一方、約束された排出削減の規模は依然として不十分だ。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局は2026年10月27日、各国が提出した温室効果ガス削減目標などを集計した3つの報告書を公表した。
今回の国別削減目標(NDC)総括では、現行目標に基づく2035年の世界排出量が、基準年の2019年より平均約6%少なくなると試算された。資金や国際支援などを前提とする条件付きの取り組みまで全面的に実施できた場合でも、削減は約9%にとどまる見通しだ。
11月9〜20日にトルコ・アンタルヤで開かれるCOP31を前に、目標を掲げることと実際に資金・技術・政策を動かすことの隔たりが改めて浮かんだ。

10月27日公表の3報告、対象は削減だけではない
公表されたのは、各国の国別削減目標を集約する「NDC総括報告書」、各国の取り組み状況を扱う「隔年透明性報告書(BTR)総括」、気候被害への備えを扱う「国家適応計画(NAP)進捗報告書」の3つ。
NDCは主に何を達成するつもりなのかを示し、BTRは実施状況の把握に、NAPは干ばつ・洪水・暑熱などへの対応の計画と実行に焦点を当てる。それぞれ役割が異なるため、削減目標の集計をそのまま実測排出量の結果と受け取ってはいけない。
2035年「6%減」、条件付き全面実施でも「9%減」
UNFCCCの2026年NDC総括では、各国の新しい目標を踏まえた世界の温室効果ガス排出量が2035年に2019年比平均約6%減と見込まれた。推定には不確実性があり、報告書は削減率の幅も示している。
国際的な資金協力や技術支援などを条件とする削減策まで、すべて実施できたとする場合には平均約9%減となる。これは実際に9%減ることが確定したという意味ではなく、提示された条件が満たされることを仮定した試算だ。
国連はこの水準では、気温上昇を1.5度に抑えるために科学的に求められる削減と比べ、なお大きな隔たりがあると評価している。削減率の比較では、必ず「2035年」「2019年比」「予測」であることを明示する必要がある。
127件の新しいNDC、154締約国を集計
今回の総括の中心となるのは、2024年1月1日から2026年8月31日までに登録された127件の新NDCで、パリ協定の154締約国に相当する。共同で目標を提出する場合もあるため、文書数と国・地域の数が一致しない。
対象は2019年時点の世界排出量の約71%を占める。対象範囲を「世界全体の71%」と示すときは、その年の排出量に対する比率だという点にも注意が必要だ。報告書には締め切り直後に届いた一部の目標も反映されている。
計画の内容は改善、実効性には課題
報告書によると、新NDCで自治体、市民社会、民間企業などの関係者を実施に参加させたと報告する締約国は98%。従来のNDCにおける70%から増えた。
最初の世界全体の進捗評価(グローバル・ストックテイク)を踏まえたとする国・地域は90%。65%は、クリーンエネルギーがエネルギー安全保障に貢献する点を強調した。
こうした改善は政策の対象が広がっていることを示すが、政策文書に盛り込まれたことと、排出量削減の実績が生じたことは別だ。国連が指摘したのは、計画の高度化と削減の不足が同時に存在しているという現実である。
適応計画は146カ国が着手、提出できた途上国は81カ国
国家適応計画の進捗報告では、2026年10月20日時点で146カ国がNAPの策定プロセスを開始していた。一方、実際に計画を提出した途上国は81カ国で、その中には後発開発途上国(LDC)29カ国、小島嶼開発途上国(SIDS)17カ国が含まれる。
課題は計画作りだけではない。資金申請の審査や承認に時間がかかり、承認済みの支援が現場に届くまで遅延することもある。UNFCCCは「資金の承認」と「資金に実際にアクセスできること」を区別し、適応策を実行可能にする仕組みの改善を求めている。

透明性報告は「約束と実行」をつなぐ
隔年透明性報告書(BTR)の総括は、各国が提出したデータを使って削減目標に関する政策と実施状況を可視化する役割を持つ。報告対象には2020〜2022年の第1回報告期間に関する情報も含まれる。
UNFCCCによると、BTRの対象国・地域の80%が、政府以外の関係者を気候対策に関与させていると報告した。ただし、「80%」は排出削減率ではない。報告の作成体制が整いつつあることと、実際の排出削減量の増加とは分けて判断する必要がある。
COP31は11月9〜20日、トルコ・アンタルヤで開催へ
国連気候変動会議COP31は2026年11月9日から20日まで、トルコのアンタルヤで開催される予定だ。今回の報告書は会議前に発表され、削減、適応、気候資金、公正な移行などの協議を支える材料となる。
特に注目されるのは、条件付きの削減目標を実行に移すための資金や技術の確保、メタン排出の抑制、電化の促進などだ。会議前の時点で「新たな合意が成立した」と扱うことはできない。交渉結果と現場での実施は別の段階にある。
日本の企業にとっての意味――予測と規制を混同しない
今回の国連報告は、直ちに日本企業へ新たな義務を課す法律ではない。それでも、エネルギー調達、輸送費、海外取引先からの情報開示要請、投資判断などに関連する政策が今後どう具体化するかを読むうえで重要な背景資料となる。
企業が注視すべきなのは、国連の削減見通しそのものより、各国で実際に施行される制度、適用範囲、期限、算定方法だ。国際的な目標が示された段階と、国内法・調達条件・契約条項に落とし込まれた段階とを分けて確認する必要がある。
今後の焦点は、追加目標よりも履行能力
今回の数字は「世界の排出量がすでに6%減った」という実績値ではない。2035年までに現在の目標を実施した場合の予測であり、条件付き全面実施の9%という数値も達成を保証しない。
COP31で注目すべきは、各国の対立や新しい約束の大小だけでなく、資金が必要な国や地域に届く仕組みが改善するか、透明性のある進捗確認が進むかという点だ。国連の3報告は、気候政策を宣言ではなく実行結果で測るための出発点となる。
主な一次資料・補足資料:





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