米大使館、サウジ全土に警戒情報――空港へのミサイル・ドローン攻撃、日本も主要8州に渡航中止勧告
米国政府は2026年10月28日、サウジアラビア全土を対象とする詳細な安全警戒情報を公表しました。
首都リヤドを含む国内の民間空港や重要インフラがミサイル・ドローン攻撃を受け、死傷者や深刻な航空障害が発生しているためです。
米国務省は10月23日付で、緊急業務に従事しない米政府職員とその家族に出国を命令。現地に残る米政府職員についても、サウジ国内の空港を利用するには特別な許可が必要となっています。
一方、日本外務省も10月22日、リヤド州やマッカ州など主要8州の危険レベルを3「渡航中止勧告」に引き上げました。
さらに10月29日には、サウジアラビア主導の連合軍が、東部州に向けて発射された弾道ミサイルを迎撃したと発表しました。
一連の発表から何が分かるのでしょうか。米国、日本、サウジアラビアの一次情報を照合し、現地で起きていることと、日本人が注意すべき点を整理します。
※本記事は2026年10月30日時点の公開情報に基づきます。空港の運航状況や安全上の措置は随時変更される可能性があります。

米国は10月23日に一部職員と家族へ出国を命令
10月28日に在サウジアラビア米国大使館が公表したのは、「Security Alert(安全警戒情報)」です。
対象地域はサウジアラビア全土とされています。
その中で米大使館は、10月23日付で米国務省が、緊急業務に従事しない政府職員および政府職員の家族にサウジアラビアからの出国を命令したと説明しています。
ここで日付と対象者を正確に区別する必要があります。
出国命令は10月28日に新しく発令されたものではなく、10月23日付の措置です。また、サウジアラビアにいるすべての米国人に出国を命令したものでもありません。
米国務省の正式な渡航情報では、サウジアラビア全体の危険度はレベル3「渡航の再検討」を維持しています。ただし、イエメンとの国境地域はレベル4「渡航禁止」です。
今回の警戒情報では、攻撃の危険が空港や重要インフラに及んでいること、政府職員に追加の移動制限があること、一般の渡航者も飛行機や移動経路の安全を慎重に判断する必要があることが具体的に説明されています。
民間空港への攻撃で何が起きているのか
イエメンの武装組織フーシー派とサウジアラビア側の交戦は、10月に入って激化しました。
米国政府はフーシー派をイランの支援を受ける組織と位置づけています。
サウジアラビアの民間航空当局は10月9日、前日の8日に首都リヤドのキング・ハーリド国際空港で2件の攻撃が発生したと発表しました。
一つは空港施設、もう一つはサウジアラビア航空の航空機を標的にしたものと説明されています。
また、日本外務省が10月22日に公表した危険情報では、サウジアラビア主導連合軍の10月15日の発表として、10月7日以降の攻撃によりリヤドの空港で17人が死亡、333人が負傷、アブハー空港でも3人が死亡、28人が負傷したと伝えています。
さらに10月22日には、東部州の国際空港と石油施設への攻撃で、3人が死亡、10人が負傷したとのサウジ当局の発表があったとしています。
これらはサウジ当局が発表し、日本外務省が紹介した被害情報です。
一方、フーシー派が発表する攻撃目標や戦果については、すべてが独立して検証されているわけではありません。攻撃したという主張と、実際に被害が確認された事実は分けて考える必要があります。
リヤド空港では予定便の約86%が欠航
民間航空への影響も大きくなっています。
ロイター通信が10月26日に報じた航空情報会社Ciriumのデータによると、10月8日から25日までにリヤドのキング・ハーリド国際空港で予定されていた4,736便のうち、4,071便が欠航しました。
欠航率は約86%です。

これは10月8〜25日の集計であり、10月30日現在の欠航率を示す数字ではありません。
米大使館の10月28日付警戒情報によると、主な空港の状況は次のとおりです。
・リヤド・キング・ハーリド国際空港(RUH):一部の国内線とサウジ国内航空会社による国際線が限定的に再開。
・ジッダ・キング・アブドルアジーズ国際空港(JED):運航継続。ただし遅延・欠航あり。
・ダンマーム・キング・ファハド国際空港(DMM):運航継続。ただし遅延・欠航あり。
リヤド発着の一部の便は、カシーム州のプリンス・ナイフ・ビン・アブドルアジーズ国際空港(ELQ)を使用しているとも説明されています。
ただし、「一部再開」は「安全が回復した」という意味ではありません。
米大使館は、空港への新たな攻撃、空域閉鎖、突然の欠航などが起こり得るとして、航空会社と空港の双方に運航状況を確認するよう求めています。
日本外務省はさらに踏み込み、真に必要な場合を除いて、サウジ国内の空港を利用したり、近づいたりしないよう注意喚起しています。
米政府職員には空港利用そのものに特別許可が必要
今回の警戒情報で特に注目されるのが、米政府職員への移動制限です。
米国政府は、サウジアラビアで勤務する自国の政府職員が国内の空港を利用する際、在外公館長による特別な許可を必要としています。
また、イエメン国境から20マイル(約32キロメートル)以内への移動は禁止されています。
さらに、ジザン州、アシール州、ナジュラーン州や、カティーフ、ヤンブー、タイフなどへの移動にも特別な許可が必要です。
これらは米政府職員を対象とした規則であり、一般の日本人旅行者やサウジアラビア国民に同じ許可制度が適用されるという意味ではありません。
しかし、米政府が自国職員の空港利用にまで制限を設けていることは、外交関係者の安全管理が厳格化されていることを示しています。
日本政府は主要8州を危険レベル3に引き上げ
日本外務省も、今回の事態に対応しています。
10月22日には、以下の8州全域を危険レベル3「渡航中止勧告」としました。
・リヤド州
・東部州
・マッカ州
・マディーナ州
・ナジュラーン州
・アシール州
・バーハ州
・ジャーザーン州
そのほか北部国境州、ジャウフ州、タブーフ州、ハーイール州、カシーム州にはレベル2「不要不急の渡航中止」が発出されています。
ただし、外務省はリヤド、東部、マッカ、マディーナの4州について、企業・団体の活動など真にやむを得ない事情がある場合に、必要な安全対策を講じて滞在を続けることを妨げないとしています。
この例外は、不要不急の渡航を認めるものではありません。
また、日本政府は今回のレベル3への引き上げをもって、すべての在留邦人に直ちに出国を求めているわけではないことも明記しています。
危険な空港に無理に移動したり、十分な情報がないまま陸路で国境へ向かったりすることには、別の危険があるためです。
出国を検討する場合にも、航空便、移動経路、国境の運用状況を確認し、必要に応じて日本大使館・総領事館に相談することが重要です。
ミサイルやドローンの撮影・SNS投稿にも拘束リスク
今回の米大使館の警戒情報には、見逃せない注意事項があります。
それが、攻撃や迎撃の写真・動画を撮影したり、関連情報をSNSで公開・共有したりすることへの警告です。
サウジ内務省は、ミサイルやドローンの迎撃、着弾地点などに関する情報の撮影・公開・共有が法的責任につながると警告しています。
米大使館によると、こうした規制に従わず、政府施設、空港、着弾地点などを撮影した米国人が拘束された事例もあります。
日本外務省も、軍事施設やエネルギー施設などの撮影を避けるよう繰り返し注意喚起しています。
仮に現地で爆発音が聞こえたり、ミサイルの迎撃を目撃したりしても、安易にスマートフォンを向けて撮影すべきではありません。
また、他人が投稿した映像を拡散することにも注意が必要です。
現地の法律は外国人旅行者や在留者にも適用されます。
これは、単なるSNS上のマナーの問題ではなく、身柄拘束や処罰につながり得る問題です。
10月29日にも新たなミサイル迎撃を発表
米大使館が警戒情報を発表した翌日の10月29日、サウジ国営通信SPAは、サウジ主導連合軍のトルキ・マリキ報道官による新たな発表を伝えました。
それによると、フーシー派がサウジアラビア東部州に向けて発射した弾道ミサイル1発を防空部隊が迎撃し、破壊したとしています。
今回の発表だけでは、発射地点、迎撃地点、破片による被害の有無など、すべての詳細は分かりません。
それでも、10月28日の警戒情報の後もサウジ側がミサイル迎撃を発表していることは、状況がなお流動的であることを示しています。
現段階で、交戦がいつ終息するかを確実に判断できる情報はありません。
サウジにいる日本人、渡航予定者はどうすべきか
今回の警戒情報から考えられる対応を整理すると、まず重要なのは、自分の置かれた状況に応じて行動することです。
【これから渡航する場合】
外務省の危険情報を確認し、渡航の延期や中止を含めて検討してください。仕事などで渡航を予定している場合も、現地の受け入れ先や旅行会社と安全対策を再確認する必要があります。
【すでに現地に滞在している場合】
空港やエネルギー関連施設、軍事施設など危険のある場所に近づかないことが重要です。現地当局が緊急警報を発した場合は、その指示に従ってください。
航空便の欠航を理由に、確認のないまま別の空港や国境へ移動することは避けるべきです。
米大使館は、自家用車、鉄道、バスなどを空路の代替手段として紹介しています。また、バーレーン、ヨルダン、オマーン、カタール、アラブ首長国連邦の国際空港が、警戒情報の発表時点で運用されているとも説明しています。
ただし、これらは移動の安全を保証するものではありません。陸路移動や第三国経由の出国を計画する場合には、治安状況、国境の通行条件、必要書類などの確認が欠かせません。
【緊急時の安全確保】
空からの攻撃が発生した場合、米大使館は窓やガラス扉、落下した破片などから離れ、当局の案内を確認するよう呼びかけています。
また、スマートフォンを充電し、家族との連絡手段や緊急連絡先を確認しておくことも重要です。
日本人の渡航者は、外務省の「たびレジ」に登録すると、安全情報や緊急時の連絡を受け取りやすくなります。
在留邦人で緊急の相談が必要な場合は、在サウジアラビア日本国大使館、在ジッダ日本国総領事館などの窓口を利用してください。
在サウジアラビア日本国大使館:+966-11-488-1100
在ジッダ日本国総領事館:+966-12-667-0676
今後注目すべき3つの動き
第一に、フーシー派とサウジアラビア側の攻撃・迎撃が続くかどうかです。
特に民間空港や石油関連施設への攻撃は、死傷者の発生だけでなく、航空便やエネルギー関連事業にも影響を与える可能性があります。
第二に、リヤドをはじめとする国内空港の運航回復です。
一部の便が再開されても、攻撃の危険がなくなったわけではありません。利用制限や欠航状況の推移を追う必要があります。
第三に、米国、日本、サウジアラビアの各政府が今後どのような措置を取るかです。
今回の米大使館の警戒情報は、サウジアラビアからすべての米国人が避難するよう命じたものでも、今後の大規模戦争を予告したものでもありません。
しかし、外交関係者の退避、民間空港への攻撃、航空便の大量欠航、渡航危険情報の引き上げという複数の事実から、現地の安全保障環境が深刻な状況にあることは明らかです。
今後も、各国政府の公式発表と実際に確認された被害を区別しながら、状況を継続して確認する必要があります。
主な一次資料・参考情報





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