会社の成長は経営者の「3つの天井」で止まる——ナタリー・ドーソンのリーダーシップ論
会社の成長が止まったとき、多くの経営者は営業、人材、市場、商品など外側の要因を疑います。ところが、組織がある程度まで大きくなると、別の問題が出てきます。会社を率いる経営者自身が、成長の上限になっている可能性です。
アメリカの経営者・起業家、ナタリー・ドーソン(Natalie Dawson)は、2024年6月10日に公開したPodcast「Building Billions」のエピソード「How I Lead A $125M Team」で、組織の成長を止める「3つのLid(天井)」について語っています。
ドーソンは、ジョン・C・マクスウェル(John C. Maxwell)の「Law of the Lid(リーダーの能力が組織の上限を決める)」という考え方を、自身の経営経験に合わせて3つに分解しています。信念の天井、実行力の天井、そしてリーダーシップの天井です。
この3つを日本の中小企業に当てはめると、「人が足りない」「営業が弱い」といった表面的な問題とは別に、経営者が見直すべき場所がかなり具体的に見えてきます。
組織の成長は、経営者の信念・実行力・リーダーシップという3つの「天井」に左右されます。Illustration: Alghozy / Unsplash
会社の成長には、経営者自身の「天井」がある
マクスウェルの「Law of the Lid」は、リーダーの能力が組織全体の成長限界を決める、という考え方です。ドーソンはこれを、単に「リーダーシップが大事」という話で終わらせず、組織を伸ばすうえで必要な3つの段階に分けています。
本人によると、彼女が共同創業したCardone Venturesでは数百人規模のチームを率いる過程で、この3つが連動していることを強く感じたといいます。
1. Belief Lid——信念の天井
最初は「信念」です。経営者本人が、自社の目標や提供価値、そして自分たちがそこまで到達できる可能性をどこまで信じているか。ここが低いと、その先の行動も小さくなります。
これは精神論というより、意思決定の幅の話です。「うちには無理だろう」と最初から考えていれば、採用基準も投資額も営業目標も小さくなります。逆に、実現可能性を冷静に検証したうえで「ここまでは行ける」と考えられる経営者は、必要な打ち手を取りやすくなります。
2. Operational Effectiveness Lid——実行力の天井
次が「実行力」です。目標を掲げるだけではなく、決めたことを期限内に成果へ変えられるか。会議で決めた施策が動かない、担当が曖昧、数字を追っていない、毎月同じ課題を話している——こうした状態では、経営者の信念が強くても会社は伸びません。
ここで重要なのは、忙しさと実行力は別だということです。社員も経営者も一日中働いているのに、重要な指標が動いていない会社はあります。ドーソンの枠組みで見ると、それは「実行力の天井」に当たります。
3. Leadership Lid——リーダーシップの天井
最後は「自分の成功を他の人に再現できるか」です。経営者本人が優秀でも、判断、営業、顧客対応、品質管理のすべてがその人に集中していれば、会社は経営者の処理能力以上には大きくなりません。
リーダーシップとは、自分が成果を出す能力だけではなく、他の人が成果を出せる状態を作る能力でもあります。経営者がいなくても判断できる人を育て、目標と基準を共有し、成果の出し方を組織へ移す。ここまでできて初めて、会社の天井が一段上がります。
3つの天井は、別々ではなく順番につながっている
ドーソンの説明で面白いのは、3つを独立した能力として扱っていない点です。信念が弱ければ大きな目標を設定しにくい。目標を設定しても実行力がなければ成果にならない。そして自分だけが成果を出せても、その方法を他の人へ移せなければ組織は大きくなりません。
つまり、信念 → 実行力 → リーダーシップという順番で、会社の成長可能性が広がっていきます。逆に言えば、どこか一つで詰まれば、その場所が新しい「天井」になります。
この考え方は、以前取り上げたアレックス・ホルモジの「ボトルネック思考」とも相性がいいです。会社全体を止めている制約を見つけたうえで、それが経営者自身の信念・実行力・リーダーシップのどこにあるのかまで確認できます。
日本企業では「実行力の天井」が見えにくい
日本の会社では、真面目に働くこと、丁寧に確認すること、ミスを減らすことが強く評価されます。これは大きな長所です。一方で、努力量と成果が混同されると「みんな忙しいのに、なぜか会社が進まない」という状態になりやすくなります。
たとえば「海外事業を強化する」という目標があっても、対象市場が決まっていない、誰が一次情報を調べるか決まっていない、いつまでに判断材料をそろえるか決まっていない。それでも毎週会議だけは開かれる。これは人手不足ではなく、実行設計の問題です。
経営者が見るべきなのは、「社員が頑張っているか」だけではありません。重要な目標について、担当者・期限・判断基準・数字が明確になっているか。そこまで落とし込めているかを確認する必要があります。
また、経営者本人に業務が集中している場合は、ダン・マーテルの「時間を買い戻す」経営の考え方も参考になります。自分でなくてもできる仕事を手放すことは、リーダーシップの天井を上げる準備にもなります。
今週できる「3つの天井チェック」
この理論を難しく考える必要はありません。まず、今週の経営会議や一人で考える時間に、次の3つを確認してみるだけでも十分です。
信念の天井を確認する
「本当は達成したいのに、最初から無理だと決めている目標はないか」「その目標が難しい理由を、事実と感覚に分けられているか」を確認します。楽観論ではなく、可能性を狭めている思い込みがないかを見る作業です。
実行力の天井を確認する
重要な目標を3つだけ挙げ、それぞれに担当者、期限、測定する数字があるかを確認します。どれか一つでも欠けていれば、「やること」ではなく「願望」のままになっている可能性があります。
リーダーシップの天井を確認する
「自分が1週間会社を離れたら、止まる仕事は何か」を考えてみます。止まる仕事が多いほど、経営者本人が組織のボトルネックになっています。その中から一つだけ、判断基準や手順を別の人へ移せないか検討します。
人を増やす前に、経営者の天井を上げる
会社が伸び悩むと、採用を増やす、広告を増やす、新しいツールを導入するといった打ち手に目が向きます。しかし、経営者自身の天井が変わらないまま外側だけを大きくすると、かえって管理負荷が増えることがあります。
ドーソンの「3つのLid」が示しているのは、会社の成長には経営者側の成長も必要だという、非常にシンプルな事実です。どこまで信じられるか。どこまで実行できるか。そして、その成果をどこまで他の人へ移せるか。
会社が次の段階へ進まないとき、「何を追加すべきか」だけではなく、「今の自分が会社のどの天井になっているか」と考えてみると、打ち手が変わるかもしれません。
参考原典:Natalie Dawson, “How I Lead A $125M Team”(Building Billions, 2024年6月10日公開)
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