top of page

会社が伸びない理由は、たった1つかもしれない——アレックス・ホルモジの「ボトルネック思考」

5 日前
読了時間: 8分
アレックス・ホルモジのボトルネック思考を表す図解。会社の成長を止める一つの制約が全体の流れを細くしている様子。
会社を成長させるには、すべてを一度に改善するのではなく、まず「いま成長を止めている1つの制約」を見つけることが重要です。

売上を伸ばしたい。そう思ったとき、経営者の頭にはいろいろなアイデアが浮かびます。広告を増やす。SNSを始める。営業担当を採用する。ホームページを作り直す。価格を変える。AIを導入する。新しい商品を作る。

どれも間違いではありません。

しかし、その中のほとんどが「今やるべきことではない」としたらどうでしょうか。

アメリカの起業家・投資家、アレックス・ホルモジ(Alex Hormozi)が会社を成長させる際に重視しているのが、「今、この会社の成長を最も邪魔しているものは何か」を特定することです。

ホルモジは、自身が率いるAcquisition.comの企業支援について、経営者に50個の改善点を渡すのではなく、まず会社を止めている「たった一つの制約」を見つけると説明しています。

これは一見すると単純な話です。しかし実際の経営では、この「一つ」を見つけることが意外なほど難しいのです。



アレックス・ホルモジとは


ホルモジは、アメリカの起業家・投資家で、現在は妻のレイラ・ホルモジとともにAcquisition.comを運営しています。

2013年に実店舗ビジネスを始め、3年以内に6拠点まで拡大。その後は経営不振の実店舗ビジネスの立て直しに取り組み、同じモデルを使って32以上の事業を支援しました。さらに、その仕組みをライセンス事業へ発展させ、ソフトウェア、サービス、Eコマース、実店舗の4業種で複数企業を成長させています。Acquisition.comの公式プロフィールによれば、これまでに7社を成長・売却しています。

ホルモジの話が面白いのは、「もっと頑張れ」「成功者のマインドを持て」といった精神論よりも、「どこを直せば数字が動くのか」という実務的な話が多いところです。



「全部改善する」は、実は効率が悪い


ホルモジの考え方を理解するうえで重要なのが、constraint=制約という考え方です。

会社には、マーケティング、営業、採用、商品、価格、顧客維持、資金、人材、オペレーションなど、たくさんの要素があります。しかし、会社全体の成長速度を決めているのは、必ずしもこれら全部ではありません。

たとえば、100人のお客さんを集められるのに、営業担当者が10人分しか対応できない。この場合、広告を増やして200人集めても問題は解決しません。営業がボトルネックだからです。

反対に、営業担当者が100件処理できるのに、問い合わせが10件しかない。この会社では営業スタッフを増やしても意味がありません。今度は集客がボトルネックです。

つまり、会社全体を均等に改善する必要はない。最も細くなっている場所を広げれば、会社全体の流れが大きくなる。これが基本的な考え方です。



実はホルモジが発明した理論ではない


ここは重要なので触れておきたいと思います。この考え方は、ホルモジ独自の経営理論ではありません。

原型になっているのは、イスラエル出身の物理学者エリヤフ・ゴールドラット(Eliyahu M. Goldratt)が体系化した制約理論(Theory of Constraints:TOC)です。1984年に出版された経営小説『ザ・ゴール』を通じて広く知られるようになりました。

制約理論の中心には、「システム全体の成果は、そのシステムの制約によって大きく左右される」という発想があります。全体を少しずつ改善するより、まず制約を見つけて改善する方が、システム全体の成果につながりやすいという考えです。

ホルモジが面白いのは、この昔から存在する理論とよく似た考え方を、現代の起業家や中小企業経営者にも極めて実務的な形で使っている点です。



年商1500万ドルの法律事務所で、問題だったもの


Acquisition.comは、実際の事例も紹介しています。ある年商1500万ドル規模の法律事務所では、「優秀な人材が足りない」ことが成長の制約になっていました。

会社では年間8人程度の弁護士を採用していました。しかし、成長目標を達成するには約20人必要だった。

であれば、この会社が今やるべきことは何でしょうか。新しい広告戦略でしょうか。ホームページのリニューアルでしょうか。新規事業でしょうか。

ホルモジの答えはもっと単純です。採用を増やす。年間8人しか採れていないのであれば、それを20人採れる状態にする。今はそこが会社全体を止めているからです。

他の改善は、そのあとでもいい。この「他のことを一度捨てる」というところが、ボトルネック思考の重要な部分です。



値上げできない引越会社の本当の問題


もう一つ興味深い例があります。ある引越会社は、もっと高い料金を取りたいと考えていました。普通なら、「価格設定を見直そう」という話になりそうです。

しかし実際に調べると、問題は値段ではありませんでした。顧客から見れば、その会社のサービスが安い競合会社とほとんど同じに見えていたのです。

そこでVIPサービスという上位プランを作り、他社との違いを明確にしました。つまり、本当の制約は「価格が安いこと」ではなく、「高く売れるだけの違いが顧客に見えていないこと」だったわけです。

ここには重要な示唆があります。経営者が「これが問題だ」と思っているものと、実際に会社の成長を止めているものは、必ずしも同じではないのです。



一番危険なのは「問題らしく見えるもの」


会社にはいつでも問題があります。ホームページが古い。SNSのフォロワーが少ない。営業資料がいまいち。採用ページが弱い。社内システムが使いにくい。AIをまだ導入していない。競合より知名度が低い。

これらは確かに問題かもしれません。しかし、「問題であること」と「今、会社の成長を止めていること」は別です。

ここを混同すると、忙しいのに会社が伸びない状態になります。経営者も社員も一生懸命働いている。会議もしている。新しい施策も始めている。なのに数字はあまり変わらない。

それは努力が足りないのではなく、努力する場所を間違えている可能性があります。



ボトルネックを直すと、次のボトルネックが現れる


ボトルネックは一度直したら終わりではありません。法律事務所が採用問題を解決したとします。弁護士が十分集まるようになった。すると今度は、案件が足りない、営業が追いつかない、新人教育が追いつかない、管理職が足りない、といった別の問題が会社の成長を止めるかもしれません。

Acquisition.comが示している考え方は非常にシンプルです。制約を見つける。直す。そして次の制約を探す。この繰り返しです。

会社が成長すれば、問題も変わります。だから、半年前に重要だった課題を今も最優先でやっているとは限らないのです。



日本の会社でも使える「一つの質問」


この考え方は、企業規模に関係なく使えます。まず、こう問いかけてみます。

「もし今、一つだけ問題を解決できるとしたら、何を解決すれば会社の数字が最も大きく変わるだろう?」

たとえば売上を増やしたい会社なら、そもそも問い合わせが少ないのか。問い合わせはあるが商談にならないのか。商談はあるが成約しないのか。成約するが単価が低いのか。単価は高いがリピートしないのか。注文は十分あるが人手不足で受けられないのか。

このように分解していくと、「売上が足りない」という漠然とした問題が、かなり具体的になります。



「AIを入れれば解決する」わけでもない


これは現在のAIブームを考えるうえでも重要です。最近は、「AIを導入すれば生産性が上がる」という話をよく聞きます。もちろんAIによって大きく改善できる業務はあります。

しかし、その会社のボトルネックがAIで解決できる場所にないなら、AI導入だけでは会社全体の成果はあまり変わりません。

問い合わせが足りない会社が、経理業務をAIで20%効率化しても売上は増えません。逆に、問い合わせは大量にあるのに提案書作成が追いつかず受注機会を逃している会社なら、AIによる提案書作成の効率化が大きな効果を生むかもしれません。

重要なのは、「AIで何ができるか」から考えないこと。先に、「今、何が会社を止めているのか」を考える。そのあとで、その問題を解決する手段の一つとしてAIを検討すればいいのです。



新しいことを始める前に、一度止まってみる


経営をしていると、新しいものは魅力的に見えます。新しいSNS。新しい広告。新しいAIツール。新しい市場。新しい商品。新しい事業。

しかし、ホルモジはAcquisition.comの記事でも、多くの企業が停滞する理由として「間違ったことに取り組んでいる」ことを挙げています。ゼロから100万ドルまで会社を成長させた方法と、100万ドルから1000万ドルへ成長させる方法は同じとは限りません。

新しいことを始めるより、目の前にある一番大きな制約を解決する。地味ですが、実際にはこちらの方が会社を大きく動かすことがあります。



「何をするか」より「何をしないか」


ボトルネック思考を突き詰めると、経営者にとって重要なのはタスクを増やすことではないのかもしれません。むしろ、今やらなくていいことを決める。

広告も大事。採用も大事。SEOも大事。AIも大事。営業も大事。商品開発も大事。しかし、全部を「最優先」にすることはできません。

会社の成長を今止めている一か所を見つける。そこに人、時間、お金を集中させる。解決したら、次のボトルネックを探す。

会社がなかなか伸びないとき、「もっと何をやるべきだろう?」と考える前に、一度、「今、私たちを止めているものは何だろう?」と考えてみる。それだけでも、次にやるべきことがかなり変わってくるかもしれません。



原典・参考資料


Alex Hormozi / Acquisition.com「Scaling Workshop」 https://www.acquisition.com/workshop-4b

Acquisition.com「Constraints」 https://www.acquisition.com/constraints

Alex Hormozi / Acquisition.com「What Business Are You REALLY In」 https://www.acquisition.com/what-business-are-you-really-in

Acquisition.com「Alex Hormozi Bio」 https://www.acquisition.com/bio-alex

Theory of Constraints Institute「History of Goldratt’s Theory of Constraints」 https://www.tocinstitute.org/history-of-toc.html



海外の情報を、日本のビジネス判断へ


株式会社アシーマでは、海外企業・市場・制度・ニュースなど、英語を含む海外一次情報の調査と整理を行っています。海外情報リサーチについてはこちらをご覧ください。


コメント

5つ星のうち0と評価されています。
まだ評価がありません

評価を追加

海外の一次情報を、日本語で。

海外ニュース、政府公開資料、研究論文、AI・テクノロジー、宇宙など、日本語ではまだ十分に紹介されていない情報を、株式会社アシーマが原文・一次資料から読み解いてお届けします。

Acima Intelligence

bottom of page