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忙しい経営者ほど会社を止める——ダン・マーテルの「時間を買い戻す」経営

21 時間前
読了時間: 6分

会社が忙しくなるほど、経営者の仕事も増えていく。


そう考えている人は少なくありません。


顧客が増えれば確認事項が増え、社員が増えれば相談が増え、売上が伸びれば会議も増える。

気が付けば、会社は成長しているのに、経営者本人のカレンダーだけがどんどん苦しくなっていきます。


しかし、カナダ出身の起業家・投資家・コーチ、ダン・マーテル(Dan Martell)は、ここに根本的な勘違いがあると考えています。


会社を大きくするために、経営者がもっと働くのではありません。

経営者が「自分でやらなくていい仕事」を手放せる仕組みを作ることが、次の成長の前提になるというのです。


2025年12月に公開されたマーテルの公式コンテンツでは、事業をスケールさせる6段階の最初に「Buy Back Your Time(時間を買い戻す)」が置かれています。

つまり、集客や組織拡大より先に、経営者の時間を取り戻すことから始めます。


ダン・マーテルのBuyback Loopをイメージした、経営者とチームによる業務分担のビジュアル
経営者が低付加価値業務を手放し、売上・戦略・顧客価値に時間を戻す——バイバック・ループの考え方を表したイメージ。


ダン・マーテルとは


ダン・マーテルは、複数のソフトウェア企業を立ち上げ、成長させ、売却してきた起業家です。現在は経営者向けのコーチングや投資活動を行い、「会社を成長させながら、経営者自身の時間を取り戻す」というテーマを繰り返し発信しています。


彼の特徴は、生産性を「1時間にどれだけ詰め込むか」という話だけで終わらせないことです。問題は、経営者が速く働けるかではなく、その仕事をそもそも経営者が続けるべきなのか、というところから考えます。



経営者の時間管理は「空ける」だけでは終わらない


一般的な時間管理では、予定を減らす、集中時間を確保する、会議を短くするといった工夫が中心になります。もちろん、それも有効です。ただしマーテルの考え方は一歩先にあります。


空いた1時間を休憩で終わらせるのではなく、その時間を会社の価値を大きくする活動へ戻します。営業、商品やサービスの改善、重要な採用、意思決定、顧客理解、経営戦略。経営者にしかできない仕事へ、時間を再投資するのです。


このためマーテルの方法は、単なる「時短」ではありません。経営者の時間配分そのものを、会社の成長戦略として組み替える方法です。



バイバック・ループは3段階


マーテルは、この仕組みをバイバック・ループ(Buyback Loop)と呼び、Audit、Transfer、Fillの3段階で説明しています。


1. Audit——まず2週間、何に時間を使ったかを見る


最初に行うのは、仕事を減らすことではなく、自分が何に時間を使っているかを可視化することです。


彼は2週間ほど日々の行動を細かく記録し、確認する方法を勧めています。


ポイントは、「重要そうに見える仕事」と「本当に経営者がやるべき仕事」を分けることです。メール、日程調整、資料の体裁修正、定型的な報告、情報収集、請求確認。長年自分でやっているだけで、実は他の人でもできる仕事はかなりあります。


2. Transfer——仕事ではなく「やり方」ごと渡す


次はTransfer、つまり移管です。ここで多くの会社が失敗します。


「これお願い」と仕事だけを渡し、背景や完成基準を伝えないからです。

結果として質問が増え、差し戻しが増え、経営者が「自分でやった方が早い」と仕事を取り戻してしまいます。


マーテルが紹介する方法の一つが、実際に作業する画面を録画しながら手順を残す「Camcorder Method」です。完璧なマニュアルを最初から作るのではなく、自分が一度やる過程を記録し、その記録をベースに他の人が再現できる状態を作ります。


3. Fill——空いた時間を、価値の高い仕事で埋め戻す


最後がFillです。


仕事を手放して生まれた時間を、そのまま雑務で再び埋めてしまっては意味がありません。

空いた時間を、売上、顧客価値、戦略、チーム育成など、より大きな成果につながる活動へ意識的に戻します。


ここがバイバック・ループの重要なところです。目的は「楽をすること」ではありません。経営者の1時間を、より価値の高い1時間へ交換し続けることです。



「人を増やす」と「時間を買い戻す」は違う


社員を増やしているのに、経営者が一向に楽にならない会社があります。理由の一つは、採用の目的が「仕事量を増やすこと」になっているからです。


人を採用すると、新しい管理、報告、会議、確認が発生します。経営者の仕事を減らす設計がなければ、組織が大きくなるほど経営者の仕事まで増えることがあります。


バイバック・ループでは逆に考えます。「この人を入れることで、自分のどの仕事が消えるのか」を先に決めます。採用や外注を、人数ではなく「経営者の時間を何時間取り戻せるか」で見るわけです。



日本の中小企業なら、何から手放すか


日本の中小企業や専門サービス会社であれば、いきなり大規模な組織改革をする必要はありません。


まず毎週繰り返している仕事を1つだけ選ぶのが現実的です。


手放しやすい仕事の条件


毎週または毎月繰り返す。手順がある程度決まっている。

自分がやると時間はかかるが、売上や重要な意思決定には直結しない。

この3条件がそろう仕事は、最初の候補になります。


たとえば、日程調整、定型レポート、一次情報の収集、会議資料の下準備、データ整理、定型メール、海外サイトの情報確認などです。


最初の1件は「完全委任」ではなく「再現可能」にする


最初から100%任せようとすると、うまくいかないことがあります。

まず自分がやっている様子を記録し、完成形と判断基準を共有し、1回目だけレビューする。その後、修正点を手順へ戻します。


これを繰り返すと、「自分にしかできない」と思っていた仕事が、実は「やり方が言語化されていなかっただけ」だと分かることがあります。



ホルモジの「ボトルネック思考」と組み合わせると、さらに使いやすい


以前の記事で取り上げた アレックス・ホルモジの「ボトルネック思考」 は、「会社全体を止めている一番大きな制約を見つける」という考え方です。


この考え方とマーテルのバイバック・ループは相性がいいと思います。


まず会社の成長を止めているボトルネックを特定する。次に、そのボトルネックを解くための仕事へ経営者の時間を戻す。そのために、周辺の低付加価値業務を手放す。


つまり「何に集中するか」をホルモジから学び、「そのための時間をどう作るか」をマーテルから学ぶことができます。



アシーマの視点——外注はコストではなく「経営者の時間を買う」手段にもなる


日本では、外注を「社内でできない仕事を頼むもの」と考えがちです。


しかしバイバック・ループの観点では、社内でできるかどうかだけではなく、「その仕事を誰がやるのが最も合理的か」で判断します。


たとえば海外市場を調べるとき、経営者自身が英語や現地語の資料を探し、出典を確認し、内容を整理することもできます。しかし数時間、数日を費やすのであれば、海外情報リサーチとして外部へ切り出し、経営者は結果を使って判断する側に回る方が合理的な場合があります。


重要なのは、「外注した方が安いか」だけではありません。その仕事を手放したことで生まれた時間を、経営者が何に使えるのかまで含めて考えることです。


忙しさは、会社が順調な証拠に見えることがあります。しかし経営者がすべての中心に居続けなければ回らない状態は、成長の証拠ではなく、次のボトルネックの予兆かもしれません。


今週、自分のカレンダーから1つだけ「自分でなくてもいい仕事」を見つけてみてください。


それが、会社を次の段階へ進める最初の一歩になるかもしれません。



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