
最初の10社をどう獲得するか——ミチア・ローアセンの「Customer Advisory Board」戦略
新規事業を始めたとき、多くの人が最初にぶつかるのが「どうやって最初の顧客をつくるか」という問題です。広告を出す、営業メールを送る、SNSで発信する——方法はいくつもありますが、実績がまだない段階では、どれも簡単ではありません。
ミチア・ローアセン(Michia Rohrssen)は、2024年2月5日に公開した動画「The Easiest Way to Get Your First 10 Customers」で、最初の10社を獲得するための方法としてCustomer Advisory Board(顧客アドバイザリーボード、以下CAB)を紹介しています。
ポイントは、最初から「買ってください」と売り込むのではなく、早期顧客を商品づくりに参加するパートナーとして巻き込むことです。これはスタートアップだけでなく、新サービスを始める中小企業や個人事業主にも応用しやすい考え方です。
最初の10社は「売る相手」ではなく「一緒に作る相手」
ローアセンが重視するのは、最初の顧客を単なる売上として見ないことです。立ち上げ直後の商品やサービスには、改善点がたくさんあります。だからこそ、最初の顧客から得られる率直な反応は、広告費より価値を持つことがあります。
初期顧客は、何が分かりにくいのか、どこに価値を感じるのか、どの機能が不要なのかを教えてくれます。さらに満足度が高ければ、事例や紹介という形で次の顧客獲得も助けてくれます。
つまり最初の10社は、「販売先」であると同時に「市場調査」「商品開発」「営業実績づくり」を一緒に担ってくれる存在だと考えるわけです。
Customer Advisory Boardを使う5つのステップ
1.理想的なアーリーアダプターを選ぶ
最初に狙うべきなのは、誰でもいい10社ではありません。ローアセンは、新しいものを試すことに抵抗が少なく、課題を強く感じていて、フィードバックを返してくれる「理想的な早期顧客」を探すことを勧めています。
日本企業なら、既存の取引先や過去の問い合わせ先、業界団体、知人経由などから、課題意識の強い企業を10〜30社ほどリストアップするところから始められます。
2.最初から売り込まず、意見を聞く
いきなり「サービスを買いませんか」と持ちかけると、相手は営業モードで警戒します。そこでローアセンが紹介しているのが、まずフィードバックを求める方法です。
「この分野で新しいサービスを作っているので、経験のある方の意見を聞かせてほしい」と依頼する。相手の知見を尊重しながら、本当の悩みや購買判断の基準を聞き出します。
この段階の目的は、無理に成約させることではありません。顧客の言葉を集め、商品と市場のズレを減らすことです。
3.CABへの参加を提案する
対話の中で相性が良いと判断した企業には、CABのメンバーとして先行導入してもらう提案をします。ローアセンの方法では、特別価格や経営者への直接アクセスなどのメリットを提供し、その代わりにフィードバック、事例化、紹介などへの協力を得ます。
重要なのは、「値引きして売る」ことではなく、双方の役割を明確にした交換条件にすることです。顧客は特別な条件で導入でき、提供側は学習速度と実績を得ます。
4.約束を曖昧にしない
初期顧客だからといって、口約束だけで進めるのは危険です。どこまでが特別価格なのか、いつまで適用するのか、どの程度フィードバックをお願いするのか、事例掲載や社名利用は可能なのかを最初に整理しておくべきです。
ここを曖昧にすると、「ずっと安い顧客」だけが残ったり、期待していた事例協力が得られなかったりします。
5.10社を100社につなげる
ローアセンの方法では、最初の10社を獲得して終わりではありません。紹介、ケーススタディ、業界イベントなどを使い、最初の実績を次の顧客獲得に転換します。
新規事業で最も難しいのは、実績ゼロの状態です。10社の利用実績と具体的な成果ができれば、それ自体が営業資料になります。

日本では「Customer Advisory Board」と呼ばなくてもいい
米国のスタートアップ文化ではCABという言葉は比較的使いやすいですが、日本の中小企業で突然「顧客アドバイザリーボードに入りませんか」と言っても、少し大げさに聞こえる場合があります。
仕組みだけを取り入れて、「先行導入企業」「パイロット顧客」「共同開発パートナー」「モニター企業」といった名称に変えた方が自然です。
値引きには必ず期限をつける
初期顧客に特別価格を提示すること自体は合理的です。ただし、恒久的な値引きにすると、その後の価格改定が難しくなります。
「6か月間」「初年度のみ」「β版期間中」など、終了条件を最初に明示しておく方が安全です。
社名・ロゴ・事例利用は最初に確認する
日本企業では、担当者がサービスを高く評価していても、社名やロゴを事例として公開するには社内承認が必要なことが珍しくありません。
CAB参加時に「匿名なら可能」「社名掲載は別途承認」「コメント掲載可」など、利用範囲を決めておくと後で揉めにくくなります。
経営者への直接アクセスも無制限にしない
創業者や経営者への直接アクセスは、初期顧客にとって大きな価値になります。ただし、いつでも連絡可能にすると、本業の時間を奪われます。
月1回のレビュー、専用チャネル、四半期ミーティングなど、接点を仕組みにしておく方が長続きします。
小さな会社ほど、この方法は使いやすい
大企業のように大規模な広告予算がなくても、経営者自身が顧客と直接話せることは小さな会社の強みです。
たとえば新しい翻訳サービス、AI支援サービス、BtoBコンサルティング、SaaS、研修、制作サービスなどでも、最初の5〜10社を「共同開発顧客」として集める方法は使えます。
最初から完成品を作って売ろうとするより、顧客との会話を通じて需要のある形へ修正した方が、無駄な開発や広告を減らせる可能性があります。
これは、以前紹介したアレックス・ホルモジの「ボトルネック思考」とも相性がいい考え方です。顧客獲得がボトルネックなら、広告を増やす前に、まず顧客との対話方法そのものを見直す余地があります。
また、ダン・マーテルの「時間を買い戻す」考え方と組み合わせれば、経営者が初期顧客との重要な対話に集中し、それ以外の定型業務を手放す設計にもつながります。
「最初の顧客」をマーケティング資産に変える
ローアセンのCAB戦略の本質は、単に10社を早く獲得することではありません。
最初の顧客から学び、商品を改善し、その結果を事例にし、紹介を生み、次の顧客獲得につなげる。つまり、最初の10社を「顧客獲得の終点」ではなく「市場に入るための起点」として使う考え方です。
特に実績がまだない新規事業では、広告より先に「誰と一緒に作るか」を考える方が、結果的に早い場合があります。
原典
ミチア・ローアセン「The Easiest Way to Get Your First 10 Customers」YouTube、2024年2月5日公開
アシーマの海外情報リサーチ
海外の起業家や企業の成功事例、現地市場の動向、競合サービスなどを日本語で整理したい場合は、アシーマの海外情報リサーチをご利用いただけます。




コメント