星が生まれる場所の「見えない磁場」 日立電波望遠鏡、62天体で兆候を検出
太陽よりずっと重い星が誕生する現場では、目には見えない「磁場」がガスの動きを左右していると考えられています。その姿を探る日本の長期観測で、新しい成果が報告されました。
茨城大学などの研究チームは、日立32メートル電波望遠鏡で観測した大質量星形成領域のうち、十分な明るさの電波が得られた103天体を解析し、62天体で磁場の存在を示す「ゼーマン分裂」を検出しました。38天体では今回新たに確認された現象だといいます。
研究は2026年10月21日に学術誌『Publications of the Astronomical Society of Japan(PASJ)』でオンライン公開され、茨城大学が27日に成果を発表しました。今回検出したのは、磁力線を写真のように直接撮影した画像ではなく、電波の周波数に現れた非常に小さなずれです。

103天体を調べ、62天体で磁場の兆候を検出
研究チームが対象にしたのは、太陽の約8倍以上の質量を持つ恒星が生まれつつある領域です。観測された103天体で「6.7ギガヘルツのメタノールメーザー」と呼ばれる電波を分析し、そのうち62天体でゼーマン分裂を検出しました。
38天体は、今回の分析による新たな検出です。ただし「62個の星そのものの磁場を直接測った」と受け取るのは正確ではありません。研究で検出したのは、星の形成領域にあるメタノールメーザーの放射に表れた磁場のサインです。
なぜ太陽の8倍以上も重い星が重要なのか
太陽より大幅に重い恒星は、強い放射や恒星風で周辺のガスを動かし、やがて超新星爆発などを通じて星間空間へ物質を戻すことがあります。そのため、大質量星がどのように成長するかは、銀河全体の進化を考えるうえで重要な問題です。
しかし、大質量星が形成される場所は地球から遠く、濃いガスやちりに覆われています。可視光では見通しにくい領域を、電波によって探る必要があります。
「メタノールメーザー」は自然界の電波の目印
メタノールと聞くと地上の化学物質を連想しますが、宇宙空間でも分子として存在しています。条件がそろうと、特定の周波数の電波が強く増幅されます。これが「メーザー」です。
研究では周波数6.7ギガヘルツのメタノールメーザーを利用しました。これらは成長途中の大質量星の近くで観測されるため、形成領域の物理状態を探る手掛かりになります。
見えない磁場をどうやって検出したのか
鍵になるのは「ゼーマン効果」です。磁場のある場所では、原子や分子から出る光や電波の周波数がわずかに変化することがあります。
研究チームは、右回りと左回りの円偏光という2種類の電波信号を同時に記録しました。両者のスペクトルに現れる微小なずれを比較することで、観測者から見た方向の磁場成分について手掛かりを得ます。
ただしメタノールの場合は周波数のずれがきわめて小さく、1回の観測だけでは検出が難しいことが課題でした。
5年分の観測データを重ねて、かすかな信号を取り出す
日立32メートル電波望遠鏡では、メタノールメーザーの監視観測を2013年から継続しています。今回の研究では、2017〜2022年の約5年間に取得した2種類の偏光スペクトルをそれぞれ平均しました。
長期間のデータを重ねることで雑音を抑え、わずかな差を取り出しやすくします。そして、スペクトルの類似性を比較する相関関数という方法を用いました。
この継続観測の積み重ねが、多数の天体について磁場の兆候を一括して調べる結果につながりました。

ある天体では、場所によって信号の符号が違った
研究チームは「G06.795−0.257」という大質量原始星の近くでも注目すべき違いを見つけています。電波が放射される領域によって、ゼーマン分裂の符号が異なっていたのです。
これは、回転する円盤やそこから吹き出すガスの流れに沿って磁場がねじれている可能性と整合します。しかし、現段階ではその解釈だけに限定できません。
磁場の「強さと向き」の確定には、まだ課題がある
メタノール分子が磁場にどう応答するかを示す「ゼーマン分裂係数」には、実験と理論の間で解釈上の不確定性があります。
分子の細かな内部構造の違いを考慮すると、実際の磁場の向きが同じでも、観測されるずれの符号や大きさが放射領域によって変わる可能性が指摘されています。
したがって、今回の結果から「星の周りの磁場が必ず反転している」「磁場の形状が完全に分かった」と断定するのは適切ではありません。検出された信号と、その物理的な解釈は区別する必要があります。
日本の電波望遠鏡が積み上げた成果
今回使われた日立32メートル電波望遠鏡は、茨城大学が国立天文台などと協力して運用する観測施設です。多数の天体を長期間見守ることによって、短期観測では見落とされかねない微弱な信号を見つける力を発揮しました。
宇宙の最新研究には巨大な新型望遠鏡の画像が注目されがちですが、こうした継続的な電波観測も、星が生まれる仕組みを理解するための重要な基盤です。
次の課題は、異なる周波数で確かめること
研究チームは今後、6.7ギガヘルツに加えて12.2ギガヘルツなど異なるメタノールメーザーの放射も同時に調べ、磁場の推定に伴う不確定性を減らしたいとしています。
今回の研究は、大質量星が生まれる場所で磁場の影響を考えるための観測データを大きく増やした成果です。ただし、磁場の正確な構造や星の成長への役割には、今後の検証が欠かせません。
一次資料:茨城大学宇宙科学教育研究センターの2026年10月27日発表。研究論文:Moriizumiほか『Systematic detection of Zeeman splitting of 6.7 GHz class II methanol masers by long-term monitoring observations using Hitachi 32 m radio telescope』、DOI: 10.1093/pasj/psag139、2026年10月21日オンライン公開。





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