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外国人観光客の医療費未払いにどう備える?病院・クリニックが使える具体策

2 日前
読了時間: 13分
医療機関の受付と待合スペース。外国人患者の保険・支払方法を確認する受入体制のイメージ
医療機関の受付対応のイメージ。写真は本文で紹介する医療機関・事例とは関係ありません。写真:Martha Dominguez de Gouveia / Unsplash(トリミング)。


2026年10月30日時点の公表情報に基づく、医療機関向けの記事です。


「必要な診療は提供したい。けれど、医療費を支払わずに帰国されてしまったら、どうするのか。」


外国人患者の受け入れを検討するとき、この不安が残っていれば、設備や人員の整備にも踏み切りにくいのではないでしょうか。


例えば、観光中の患者が急な体調不良で来院し、検査の結果、入院が必要になったとします。旅行保険には加入しているものの、その場では補償内容が分からない。患者は「保険で支払われる」と考えていても、病院側には支払いが保証されていない——そんな場面を想定すると、確認すべきことは少なくありません。


しかし、未払いへの対応は、「患者を信頼して待つ」か「病院が損失を抱える」かの二択ではありません。保険会社等による支払保証、入院医療費の保証サービス、前払金、オンライン決済など、状況に応じて検討できる仕組みがあります。(厚生労働省・医療機関向けマニュアル、JMHC・医療費未収金回収サポート)


本記事では、日本に居住する公的医療保険加入者とは区別し、主に、観光や出張で短期間来日する外国人患者への対応を整理します。これから未払いに備える方法と、すでに未払いが発生した場合の対応を分けて見ていきましょう。



1.旅行保険は「加入の有無」だけでなく、病院への支払方法まで確認する


短期滞在の外国人観光客は、通常、日本の公的医療保険による給付を受けられず、医療費は原則として全額自己負担となります。ただし、海外旅行保険などの民間保険によって、契約に応じた補償を受けられる場合があります。(厚生労働省・医療機関向けマニュアル)


ここで重要なのは、「患者に保険があること」と「保険会社から病院へ直接支払われること」は同じではないという点です。


患者が先に支払い、後から保険会社へ請求する場合


患者が病院へ医療費を支払い、その後、領収書や必要書類を保険会社へ提出して払い戻しを受ける方式があります。この場合、病院が請求する相手は基本的に患者本人です。


「旅行保険に入っているので、窓口での支払いは不要」と受け取られないよう、支払いと保険請求の順序を確認する必要があります。(厚生労働省・医療機関向けマニュアル)


保険会社等が病院への支払いを保証する場合


保険会社や医療アシスタンス会社が病院への支払いに対応する場合は、支払保証書「GOP(Guarantee of Payment)」が重要になります。医療アシスタンス会社とは、保険会社・患者・医療機関の間に入り、受診や請求などを調整する会社です。


GOPでは、保証される診療の範囲、上限額などを確認します。保証の対象外となる費用や、患者本人が負担する免責額があれば、その部分の支払方法も別に整理します。(厚生労働省・医療機関向けマニュアル、36~37ページ)


院内の運用としては、保険証券を確認しただけの状態と、支払保証を受領した状態を分けて管理するとよいでしょう。保証書の発行状況、請求先、必要書類、請求期限を、担当者が引き継げる形にしておくことをおすすめします。



2.入院では、保証会社に医療費の支払いを保証してもらう方法がある


「保険に入っていない患者が入院した場合、病院側で備えられるものはないのか。」


その選択肢の一つが、入院医療費保証サービスです。患者が加入する旅行保険とは異なり、保証会社が患者の連帯保証人となり、未払いが生じた際に契約の範囲内で立替払いを行う仕組みです。(ナップメディカル公式サイト)


訪日外国人の入院に対応する保証サービスもある


JTBは2022年4月8日、ナップ賃貸保証株式会社との提携により、JMHCを通じて訪日外国人の受け入れ医療機関向けに入院医療費保証サービスを提供すると発表しました。(JTB・2022年4月の発表)


2026年10月30日時点で確認したJMHCの公式サイトにも、観光やビジネスで来日した外国人患者を対象に含む案内が掲載されています。 同ページでは、保証対象を入院時としています。(JMHC・入院医療費保証サービス)


ナップメディカルの公式サイトでも、外国籍・無保険の患者や緊急入院への対応を案内しています。ただし、保証上限、対象外費用、保証料、申込期限、立替申請の条件などは、導入前に提供会社へ確認してください。 本記事は公式サイトの公開情報に基づく紹介であり、個別の医療機関・患者への適用を確認したものではありません。(ナップメディカル公式サイト)


「海外の患者には日本国内の保証人がいない」という場合にも、検討できる仕組みです。


導入時は、保証の範囲と手続きを具体的に確認する


JMHCの案内では、医療機関ごとに保証料を設定し、入院時に患者から収受する方式が示されています。また、このサービスは入院が対象であり、外来診療の未払いまで同じ条件で保証するものではありません。(JMHC・入院医療費保証サービス)


問い合わせ時には、少なくとも次の事項を、自院の患者層や診療内容に即して確認しましょう。


確認すること

問い合わせの具体例

対象患者・診療

短期滞在の観光客、無保険患者、救急入院は対象になるか

保証範囲

保証上限額、対象外の費用、長期入院時の扱いはどうなるか

費用

保証料はいくらで、誰が負担し、いつ支払うか

申込・請求手続き

患者の申込期限、必要な同意、立替申請期限と提出書類は何か


「外国人対応」と書かれていることだけで判断せず、「自院に来る短期滞在の患者の、どの費用まで対象か」を確認することが大切です。


保証は患者の医療費を免除する仕組みではありません。保証会社が立て替えた後も、患者の支払い義務がなくなるわけではないため、その点も利用時に分かるように説明します。(ナップメディカル・サービス案内)



3.高額な診療では、概算費用と前払金を組み合わせる


費用がかかることは分かっていても、おおよその金額が分からなければ、患者側も支払いを準備できません。


厚生労働省の受付用手順書では、診療費の目安を示し、追加の検査・処置によって金額が変わることも説明するよう案内しています。高額になる場合には、患者自身にクレジットカードの支払上限を確認してもらうことも挙げられています。(厚生労働省・簡易手順書、2ページ)


「概算」と「最終的な請求額」を区別する


院内の案内では、例えば「現時点で見込まれる範囲」「追加の検査などで変わる可能性」「費用が増える際の説明方法」を分けておくとよいでしょう。


検査や入院が追加された際には、その時点で費用の見通しと支払方法を見直す運用にします。退院時になって初めて大きな金額を伝えるのではなく、途中で確認する機会を設けます。


前払金は、金額への合意と精算方法まで決める


厚労省の手順書では、高額な治療費が予想される場合、デポジット(前払金)を検討する方法も示されています。患者が理解できる言語で説明し、金額に合意したうえで受領し、受領証を渡すという流れです。(厚生労働省・簡易手順書、4ページ)


院内で導入するなら、前払金の金額だけでなく、最終請求額への充当、追加支払い、余剰分の返金についても、担当者間で扱いを決めておくとよいでしょう。


ただし、これは「前払金を払えなければ、一律に診療しない」という手順ではありません。政府の説明でも、一般に、支払えないことだけを理由に診療を拒むことはできず、緊急性などを踏まえた判断が必要とされています。救急では必要な診療を優先し、費用・保険の確認は可能な範囲で並行して進めることが前提です。(参議院・政府答弁書)



4.帰国後にも支払える決済手段を用意する


未払いへの対応では、「支払う意思がない」のか、「支払いたいが利用できる手段がない」のかも分けて考える必要があります。厚労省が公開する入門ガイドブックでも、日本円の不足、カードが使えないこと、海外送金の難しさなどが未収金の要因として整理されています。(厚生労働省・入門ガイドブック)


日本国外からカードで支払える仕組み


JMHCが案内する多通貨クレジットカードのオンライン決済サービスでは、来日前の前払金や帰国後の費用請求など、患者が日本にいない状態でもカード決済による請求が可能とされています。(JMHC・医療費未収金回収サポート)


これから仕組みを導入する医療機関は、既存の決済会社も含めて、海外発行カードへの対応、非対面決済、手数料、返金処理、運用開始までの手続きを確認するとよいでしょう。


オンライン決済は、支払いのために再来院してもらう必要をなくす選択肢です。ただし、決済手段を用意することと、保証会社が未払いを立て替えることは別の仕組みです。支払手段の整備と、支払保証の確保を使い分けます。(JMHC・医療費未収金回収サポート)


帰国後も連絡できる情報を、受付時に確認する


患者に請求を届けるためには、連絡先が必要です。厚労省の手順書でも、日本滞在中と帰国後の連絡先、民間保険の情報などを診療申込書で確認することが推奨されています。(厚生労働省・簡易手順書、1ページ)


院内では、ホテル名だけで受付を終えず、本人に連絡がつくメールアドレスや帰国後の連絡先を確認する運用を検討しましょう。収集する情報と利用目的を整理し、個人情報の院内ルールに沿って管理します。



5.すでに未払いが発生した場合は、請求先と回収方法を整理する


「予防策は分かった。けれど、すでに支払いが残っている患者には、何ができるのか。」


この場合は、まず担当者を決め、請求書、支払状況、患者とのやり取り、保険・保証に関する書類を一つにまとめることから始めます。そのうえで、次の順に確認すると整理しやすくなります。


保険・保証による支払いを請求できるか


GOPを受領しているなら、保証された範囲と実際の請求内容を照合し、必要書類や請求手続きの不足がないかを確認します。入院医療費保証サービスを利用している場合は、その保証契約に基づく立替申請を確認します。(厚生労働省・医療機関向けマニュアル、JMHC・保証サービス)


保証サービスは、医療機関の契約や患者ごとの利用手続きを伴います。未払いが発生した後からでも当然に保証を付けられる、という前提では進めず、提供会社に適用可否を確認してください。(JMHC・医療費未収金回収サポート)


患者への請求内容と支払方法を再確認する


患者への連絡では、請求額だけを伝えるのではなく、何の費用か、支払済み額はいくらか、残額はいくらかを区別した請求書を用意するとよいでしょう。


連絡が取れる場合は、請求内容に疑問があるのか、決済できないのか、支払い自体が難しいのかを確認し、院内の権限・方針に沿って対応を判断します。帰国後に支払手段が課題となっている場合には、前述のオンライン決済などを検討できます。(JMHC・医療費未収金回収サポート)


連絡が取れない、支払いを拒否される場合


こうした案件は、受付担当者だけに継続対応を任せず、院内の管理者・法務担当や弁護士に相談する段階と考えます。


相談時には、患者の所在、請求根拠、連絡履歴、保険・保証の有無を整理し、回収の見込みと、回収に必要な費用・労力をどう判断するかまで相談するとよいでしょう。


「海外に帰ったから何もできない」と決めつけるのでも、「必ず回収できる」と期待するのでもなく、個別の案件として見極めることが必要です。



6.病院だけで対応に困ったときに使える公的支援


夜間・休日には、医療機関向けの相談窓口がある


厚生労働省委託事業の「夜間・休日ワンストップ窓口」は、外国人患者への対応について、医療機関や地方公共団体の関係者が相談できる窓口です。


電話:03-6371-0057


受付時間:平日17時~翌9時、土日祝日・年末年始は24時間


個人の患者からの相談窓口ではありません。利用時には、都道府県名、医療機関名、所属部署、担当者名を伝えます。通話料は利用者負担です。(厚生労働省・夜間休日ワンストップ窓口)


担当者が夜間に判断に迷ったとき、どこへ相談するかをあらかじめ決め、院内の対応表に載せておくとよいでしょう。


未払い情報を国へ報告する制度もある


一定の条件を満たす未払いについては、厚労省の「訪日外国人受診者医療費未払情報報告システム」に報告する仕組みがあります。提供された情報は出入国在留管理庁に共有され、次回以降の入国審査に活用されます。(厚生労働省・未払情報報告制度)


2026年4月1日以降に発生した未収金は、累計残高1万円以上で、回収の見込みがないものなどが登録対象です。それ以前の2021年5月10日~2026年3月31日に発生した未収金は、累計残高20万円以上が基準となります。対象患者や報告時期にも条件があるため、公式マニュアルに沿って対応します。(厚生労働省・報告マニュアル、7ページ)


これは、未払いの抑止に向けた制度です。報告すれば医療費が補償されるわけでも、自動的に次回の入国が拒否されるわけでもありません。 回収のための手続きとは分けて扱います。(厚生労働省・報告マニュアル)


公的な補てん制度は、対象患者・施設の条件を確認する


公的な補てんについても、制度名だけで判断しないことが重要です。


東京都の「外国人未払医療費補てん事業」は、都内に居住・在勤することなど、所定の条件を満たす外国人を診療した医療機関への制度です。


短期滞在の在留資格で滞在する人は対象外で、東京都は旅行者および出張で来日した人も対象にならないと明示しています。 したがって、外国人観光客や出張者の未払い医療費を補てんしてもらえる制度として扱うことはできません。(東京都・外国人未払医療費補てん事業)


一方、国には、公立を除く救命救急センターで、日本の公的医療保険に加入していない重篤な外国人救急患者を診療した場合などに、一定の条件で未収金を補助する仕組みもあります。一般の外来や、すべての医療機関に適用される制度ではないため、該当する施設は所管部署に確認してください。(参議院・政府答弁書)



7.まずは、自院に必要な対策を選ぶ


未払い対策を整えるために、最初からすべてのサービスを導入する必要はありません。


本記事で紹介した仕組みを踏まえ、まずは次のように、自院の診療形態に合わせて検討を進めることをおすすめします。


自院の状況

優先して検討すること

外来診療が中心

保険による支払方法の確認、概算費用の説明、利用できる決済方法、帰国後の連絡先

入院や高額治療がある

上記に加え、GOPの取得・管理、前払金、入院医療費保証サービス

夜間・救急対応がある

診療を優先したうえでの確認体制、担当者への引継ぎ、相談窓口の共有


厚労省は、受付で使える「訪日外国人の受診時対応チェックリスト」と簡易手順書も公開しています。まずはこれらを確認し、自院の受付・会計・入院手続きで不足している部分を洗い出す方法があります。(厚生労働省・チェックリストと手順書)


その際、仕組みを決めるだけでなく、誰が確認するのか、どこに記録するのか、確認できない場合は誰に引き継ぐのかまで決めておきましょう。


外国人患者を受け入れることと、未払いのリスクを無条件に引き受けることは、同じではありません。利用できる保証や決済手段を確認し、現場で実行できる手順に落とし込むことが、受入体制を検討する出発点になります。



受入体制の整備を進めるなら、院内文書・Webの多言語化にも支援制度があります


支払保証や決済手段を検討し、自院での対応方針が決まったら、その内容を患者さんに伝える案内も整えておきたいところです。


例えば、受診前のホームページ、受付で渡す費用説明、入院時の前払金・精算の案内などです。どの場面で何を伝えるかを整理すると、必要な資料と対応言語が具体的になります。


東京都では、所定の条件を満たす医療機関を対象に、院内文書・案内表示・ホームページなどの翻訳・作成費を支援する補助制度があります。2026年度の追加募集の申請期限は、2026年11月10日(火)です。(東京都・外国人患者受入れ体制整備支援事業)


申請には見積書の写しが必要ですが、交付決定通知前の対象経費の支出は補助対象外です。 申請前は対象範囲の整理と見積取得を進め、正式発注・制作・支払いは交付決定後に進める計画にしましょう。契約時期などの個別の扱いは、東京都へ確認してください。(東京都・補助金事務手続の手引)


対象となる医療機関、補助上限、翻訳を依頼する際の準備は、次の記事にまとめています。


関連記事:【2026年度・東京都】院内文書・Web翻訳に使える補助金|対象条件と見積準備


補助制度の利用にかかわらず、院内文書やホームページの翻訳については、アシーマへの翻訳見積相談をご利用いただけます。


本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の診療対応、保険・保証の適用、債権回収については、医療機関の方針、契約内容、関係法令を確認し、必要に応じて所管窓口や専門家へご相談ください。

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