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南極の海氷減少で中層水が「高塩分・高密度」へ転換 2016年以降の変化を観測

7 日前
読了時間: 5分

南極の海氷が減ると、海の深い場所の塩分まで変わる。南極海でつくられ、南半球の広い海域に流れ出す「南極中層水」で、約20年続いた淡水化の傾向が2016年を境に逆転したことが分かりました。

インド科学研究所、メルボルン大学、英サウサンプトン大学の研究チームは、世界各地の海洋観測データを分析し、海氷減少と中層水の塩分・密度の変化が結び付いていると報告しました。論文は2026年10月28日、『Nature Climate Change』に掲載されました。海流や熱、炭素の移動に関わる発見ですが、世界の海流がすでに停止したという報告ではありません。

 

 

南極中層水とは何か

 

南極中層水(Antarctic Intermediate Water、AAIW)は、南極海の海面近くで形成され、海中に潜り込んで北へ運ばれる水塊です。おおむね水深700〜1200メートルに広がり、大西洋・インド洋・太平洋の水の性質に影響を与えます。

表層と深層の間で温度、塩分、酸素、炭素などを運ぶため、研究者はこの水塊を、地球規模の海洋循環を理解する鍵の一つと位置付けています。

 

 

2015年までと2016年以降で、変化の方向が逆転

 

研究によると、1995年から2015年にかけて、南極の海氷が季節的に解けることで供給される淡水が、中層水の塩分を下げ、密度を小さくする方向に働いていました。

しかし2016年以降、南極海では海氷の顕著な減少が繰り返され、夏季に海氷から供給される淡水が減りました。2016〜2024年の観測データでは、中層水が以前より塩辛く、重く、深い位置へ移る傾向が確認されました。

ここでいう「塩辛くなる」は、南極周辺の海水全体が一様に急変したという意味ではありません。特定の水塊で、長期的な塩分の変化の向きが反転したという観測結果です。

南極ウィンター島周辺の海面にある氷塊(2017年)。研究対象となった2016年以降の変化を比較する画像ではない。
南極ウィンター島沖の氷塊(2017年撮影)。今回の研究の比較データではない。Photo: owamux / Wikimedia Commons, CC BY 2.0。

 

 

海氷の減少が、なぜ深い水の性質を変えるのか

 

海氷は水が凍ってできたものですが、夏に解ければ表層へ比較的塩分の少ない水を供給します。この淡水が上層の密度を下げ、海水の層構造や、ある水が深さ方向へ運ばれる過程に影響します。

研究チームは、2016年以降の海氷縮小によって淡水の供給と沈み込みの仕組みが変わり、その影響が中層水に及んだと分析しました。海氷の面積だけでなく、融解する海氷が「どこで、どれだけ淡水を海へ渡すか」が重要だということです。

 

 

数字で見る変化――塩分と淡水供給の傾向

 

原論文では、中層水の中心付近の塩分が10年当たり約0.0048グラム/キログラム(推定誤差約0.0017グラム/キログラム)上昇する傾向が示されました。数字自体は小さく見えますが、広い範囲の水塊の長期変化を示す指標です。

また、海氷融解に伴う正味の淡水供給量の傾向は、2016年以前には10年当たり約14ミリスベルドラップ増加していたのに対し、その後は約36ミリスベルドラップ減少する方向へ変化したと推定されています。「ミリスベルドラップ」は海水の流量を表す単位で、1ミリスベルドラップは毎秒1000立方メートルに相当します。

こうした数値は、全海洋の塩分が同じ率で上昇することを意味するものではありません。

 

 

4000基規模のArgo観測網が変化を捉えた

 

研究には、海中を上下して水温や塩分を測る国際的なArgo観測網のデータが使われました。研究機関の説明によると、Argoは世界の海で約4000基の自律観測フロートが活動する仕組みです。

研究チームは、これらの観測に衛星による海氷データや再解析データを組み合わせ、2016年を境とする傾向の変化を検討しました。1回の航海や1枚の衛星画像だけから結論を出したものではありません。

フランスIFREMERの試験水槽で試験されるArgo観測フロート(2026年)。今回の論文で用いた特定フロートを示すものではない。
フランスIFREMERの試験水槽にあるArgo観測フロート(2026年7月)。今回の研究で使われた特定の測定機器ではない。© European Union, 2026 / Vincent Gouriou / EC Audiovisual Service, CC BY 4.0。

 

 

深海の温暖化や海面上昇に、どこまで関係するのか

 

中層水の密度や深さが変われば、海の表層で受け取った熱がどの深さまで移動するかにも影響する可能性があります。研究者は、深い海の温暖化や地域的な海面水位の予測を改善するうえで、この変化を考慮する必要があると述べています。

ただし、今回の論文が将来の海面上昇量や特定地域の気象変化を確定したわけではありません。炭素をどれだけ海中に隔離するか、北大西洋の循環にどの程度波及するかといった問題は、今後の検証対象です。

 

 

「海流崩壊が確定」とは言えない理由

 

南極中層水は地球規模の大循環の一部であり、持続的な変化が数年から数十年のうちに別の海域へ伝わる可能性はあります。しかし、南極の中層水の性質が変わったという観測事実と、大西洋子午面循環(AMOC)が崩壊したという主張は別です。

論文の重要性は、2016年以降の海氷減少に対応した中層水の塩分・密度変化を観測データで示した点にあります。将来の連鎖的な影響は、観測を増やし、異なるモデルで確かめる必要があります。

 

 

これから何を調べるべきか

 

今後の焦点は、海氷の季節的な変動と、より長期的な減少を区別しながら、南極中層水の変化がどの海盆へ、どの速さで伝わるかを追跡することです。Argo観測や南極周辺の衛星データの継続が欠かせません。

海氷が減ったという目に見える変化が、水深1000メートル前後の水の性質にも表れている――今回の研究は、極域と地球規模の海洋を切り離して考えられないことを示しました。

 

 

一次資料と研究の位置付け

 

一次資料:Nature Climate Change原論文「Reversal of Antarctic Intermediate Water trends triggered by sea ice decline」(2026年10月28日公開、DOI:10.1038/s41558-026-02758-y)。

研究機関の説明:メルボルン大学の公式発表(2026年10月28日)。サウサンプトン大学の公式発表も参照しました。

本研究は観測を軸とする査読付き研究です。一方、将来の海流変化、天候、海面水位への具体的影響は確定していません。

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