
米絶滅危惧種法、「harm」定義削除が9月14日発効予定 GAOは60日要件に疑義
米国のU.S. Fish and Wildlife Service(FWS)とNational Marine Fisheries Service(NMFS)は、絶滅危惧種法(Endangered Species Act、ESA)で長年使われてきた「harm(危害)」の規制上の定義を削除する最終規則について、連邦官報上の発効日を2026年9月14日としています。
これまでの定義は、保護対象の魚類・野生生物を実際に死亡・負傷させる場合、重大な生息地の改変・劣化も「harm」に含み得るとしてきました。今回の規則は、その定義そのものを50 CFR Part 17とPart 222から削除します。建設、エネルギー、鉱業、不動産、農林水産など米国内の土地利用を伴う事業にとって、ESA第9条の「take(捕獲・殺傷など)」規制の範囲を大きく変える可能性があります。
ただし、ここで「米国で絶滅危惧種の生息地を自由に壊せるようになる」と理解するのは正確ではありません。指定重要生息地に対する連邦機関の義務や、個体を直接殺傷・捕獲する行為への規制、州法による保護などは別に残ります。さらに、発効日そのものについても米政府内の一次資料に重要な食い違いがあります。
何が変わるのか 生息地改変を「take」とみなす根拠を削除
FWSの従来定義では、「harm」は野生生物を実際に死亡・負傷させる行為を意味し、繁殖、採餌、避難などの本質的な行動パターンを著しく妨げることで実際の死傷につながる重大な生息地改変・劣化も含み得るとされていました。NMFSにも類似の定義がありました。
最終規則では代替定義を新設せず、ESAの条文そのものに戻るとしています。両機関は今後の解釈について、「harm」を特定の動物に対して直ちに、かつ意図的に向けられた積極的行為として読む立場を採用しました。これにより、生息地の改変や劣化だけを理由に第9条の「take」と扱う余地は従来より大幅に狭くなります。
一方、最終規則は既存の許可やincidental take statement(偶発的捕獲等に関する声明)を、この規則だけを理由に再評価する必要はないと明記しています。既存の保全協定や回復計画も自動的に無効にはなりません。

発効日は9月14日なのか GAOが議会審査法の60日要件を指摘
ここが今回の規制を読むうえで最も注意が必要な点です。連邦官報とFWSの公式ページは、最終規則の発効日を2026年9月14日と明記しています。
しかし米政府監査院(GAO)は8月4日の報告で、この規則は「major rule」に当たり、Congressional Review Act(議会審査法)が求める60日の発効猶予は、連邦官報掲載日または議会受領日の遅い方から数える必要があると指摘しました。GAOによると、上院は7月20日、下院は7月23日に規則を受領しており、「9月14日」という公示発効日は議会受領から60日未満です。
さらに、米中小企業庁Office of Advocacyの案内は発効日を9月21日と記載しています。つまり、政府の一次資料間で日付の扱いが一致していません。ACIMA WORLD NEWSでは、このため「9月14日に確実に全面施行された」とは現時点で断定せず、連邦官報上は9月14日発効予定である一方、CRA上の手続き的な疑義が残っていると整理します。
すべての生息地保護が消えるわけではない
FWS・NMFSは、今回の規則でESA第7条に基づく連邦機関の義務は変わらないと説明しています。連邦機関は、指定されたcritical habitat(重要生息地)を破壊または不利に改変しないよう引き続き審査する必要があります。
また、個体を直接殺す、傷つける、捕獲するといったESA上の他の「take」行為も引き続き規制対象です。州独自の絶滅危惧種保護法や土地利用規制、許認可条件も別途残ります。したがって、米国で事業を行う企業は「連邦のharm定義が消えた=環境許認可の確認が不要」と判断すべきではありません。
開発コストには影響 政府試算では年間最大5.21億ドルの削減
最終規則のRegulatory Impact Analysisでは、Habitat Conservation Plan(HCP)の計画、交渉、緩和策、実施などにかかる負担が減るとして、年間の定量化可能なコスト削減を3%割引率で3億6,130万ドル、7%割引率で5億2,100万ドルと試算しています。両機関は、この経済効果を規則変更の法的根拠にしたわけではないとも説明しています。
制度変更を歓迎する開発事業者や産業界がある一方、環境保護団体9団体は7月14日に提訴し、ニューヨーク州など20州とコロンビア特別区も9月9日に関連規則をめぐる訴訟を起こしました。今後、裁判所の判断によって運用が変わる可能性もあります。
日本企業への影響 米国プロジェクトでは「規制緩和」だけを見ない
米国で工場、データセンター、再生可能エネルギー、送電網、鉱山、物流施設、不動産開発などを進める日本企業にとって、今回の変更は許認可・デューデリジェンスの前提を変える可能性があります。特に民間事業で生息地改変が第9条の「take」に当たるかという論点は、従来より狭くなる方向です。
ただし、連邦許認可や連邦資金が絡む案件では第7条、州レベルの種保護法、既存の保全条件、その他の環境法令が残るため、個別案件ごとの確認が不可欠です。さらに今回は発効日自体にCRA上の疑義があるため、契約や投資判断で「9月14日から規制が消えた」と一律に前提化するのはリスクがあります。
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ACIMA WORLD NEWSの視点
今回の案件で重要なのは、規制緩和の中身だけではありません。「最終規則が出た」「発効日が書かれている」というだけでは、実務上の法的ステータスを十分に把握できない例です。GAOが指摘する議会審査法上の60日要件と、政府機関間で異なる発効日表記は、日本企業が海外規制を追う際に一次資料を複数照合する必要性を示しています。
今後の焦点は、FWS・NMFSが発効日を修正・明確化するのか、訴訟で差止めや無効判断が出るのか、そして実際の許認可で「harm」がどのように判断されるかです。ACIMA WORLD NEWSでは、公示日ではなく実際の法的効力と運用を区別して追跡します。
一次情報・照合情報
U.S. Fish & Wildlife Service|Rescinding the Definition of “Harm” Under the Endangered Species Act https://www.fws.gov/federal-register-publication/rescinding-definition-harm-under-endangered-species-act-0
Federal Register|91 FR 43300(2026年7月14日) https://www.federalregister.gov/documents/2026/07/14/2026-14195/rescinding-the-definition-of-harm-under-the-endangered-species-act
U.S. Government Accountability Office|B-338603(2026年8月4日) https://www.gao.gov/products/b-338603
New York Attorney General|州政府連合による提訴(2026年9月9日) https://ag.ny.gov/press-release/2026/attorney-general-james-sues-defend-protections-endangered-species
Reuters|Trump administration sued over rescinding definition of “harm”(2026年7月14日) https://www.reuters.com/legal/litigation/trump-administration-sued-by-environmental-groups-rescinding-definition-harm-2026-07-14/
画像:Joanna Gilkeson / U.S. Fish and Wildlife Service / Public Domain(Wikimedia Commons) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Wetland_habitat_at_San_Joaquin_River_National_Wildlife_Refuge_(53314304425).jpg
海外の法改正・規制・制裁・産業政策を、一次情報から日本語で整理します。



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