社員を増やさず、会社を伸ばす——トレバー・G・ブレイクの「Hub Model」
組織を大きくしなければ、事業は大きくならない。そう思い込んでいないでしょうか。
トレバー・G・ブレイク(Trevor G. Blake)が提唱する「Hub Model」は、経営者をハブに置き、必要な機能を社員として抱える代わりに、専門会社や外部人材を成果単位でつなぐ考え方です。狙いは単なる人件費削減ではありません。経営者が顧客、成長、優先順位に集中できる構造をつくることです。
本記事では、2026年2月23日公開のポッドキャストと本人の公開資料を原典に、外部人材活用を日本企業で再現するための設計手順へ落とし込みます。

Hub Modelとは何か
ポッドキャストでブレイクは、Hub Modelを「従業員を雇わず、ベンダーや契約事業者を使うモデル」と説明しています。専門会社はすでに技能と社内の管理機能を持つため、経営者が一から教育するのではなく、望む成果を伝え、契約に基づいて仕事を完了してもらうという発想です。
本人の表現を日本の実務に置き換えると、経営者の役割は「全員を監督する上司」ではなく、複数の専門家を調和させる指揮者です。進め方を細かく指示するより、顧客に届ける価値、優先順位、完成条件を明確にします。
これは、仕事を丸投げする話ではありません。自社が責任を負う中核と、外部が完結できる専門機能の境界を設計する経営手法です。
「社員ゼロ」という数字より、構造を見る
ブレイクは、これまでの7社で社員を雇わず、ベンダー中心で運営してきたと語っています。この点と売却額の細部は本人発言として扱う必要があります。一方、第三者資料では、ブレイクがQOL Medicalの創業者であり、2010年に他の株主とともに全持分を売却したことが確認できます。出版社の著者紹介は、同社が1億ドル超で売却されたとしています。
重要なのは「社員ゼロ」を目標にすることではありません。見るべきなのは、固定的な階層を先に増やさず、必要な専門性を必要なタイミングで組み合わせた点です。社員が適する仕事は社員に任せ、変動が大きい仕事、希少な専門性、成果物を切り出しやすい仕事は外部と組む。この選択肢を持つことが実務的な学びです。
日本企業で「残す仕事」と「任せる仕事」を分ける
自社に残す:顧客への約束と最終責任
Hub Modelでも、経営者が手放してはいけない領域があります。顧客の課題理解、提供価値の定義、優先順位、品質の最終判断、パートナー同士の調整です。外部化するほど、自社の意思決定基準は明確でなければなりません。
外に任せる:専門家が単独で完結できる成果
外部に任せやすいのは、「誰が何時間働くか」より「何が完成すればよいか」を定義できる仕事です。たとえば海外市場調査、翻訳・ローカライズ、広告運用、デザイン、システム開発、物流、経理の一部などです。
海外展開なら、国ごとに社員を採用する前に、現地調査会社、法務・会計の専門家、翻訳者、販売代理店を案件単位で束ねる方法があります。需要が読めない初期段階でも、小さく検証し、必要な地域と機能だけを増やせます。
Hub Modelを機能させる5つの設計
時間ではなく成果物を定義する:納品物、品質基準、期限、承認者を1枚にまとめる。
窓口を一つにする:各パートナーに社内責任者を一人置き、指示の分散を防ぐ。
接続部分を文書化する:入力情報、受け渡し形式、確認期限、例外時の連絡先を決める。
更新会議より節目レビューを使う:進捗報告の回数ではなく、意思決定が必要な時点を設定する。
代替手段を持つ:重要業務は引き継ぎ資料、データ権限、予備パートナー、終了条件を準備する。
ブレイクの言う「信頼」は、管理をゼロにすることではありません。約束する成果と責任範囲を先に明確にするからこそ、日々の細かな監督を減らせます。
30日で試す、小さな導入手順
1週目:経営者の仕事を棚卸しする
過去2週間の業務を、「顧客価値」「意思決定」「専門作業」「調整」「定型作業」に分類します。専門作業と定型作業のうち、成果物を定義できるものを1つ選びます。
2週目:1ページの発注仕様をつくる
目的、納品物、品質基準、期限、利用できる情報、守秘範囲、修正回数、連絡ルールを書きます。作業手順を細かく固定するより、完成条件と禁止事項を明確にします。
3週目:小さな有償案件で検証する
最初から長期契約にせず、2〜4週間で完了する案件を依頼します。価格だけでなく、質問の質、期限遵守、説明の分かりやすさ、改善提案を評価します。
4週目:再現できる接続方法にする
良い結果が出たら、依頼テンプレート、ファイル構成、承認手順、連絡先を残します。経営者しか分からない状態から、別の担当者でも接続できる状態へ進めます。
日本で導入するときの注意点
業務委託という名称だけで、実態まで業務委託になるわけではありません。厚生労働省は、指揮監督の有無や報酬の性格などから、個別に「労働者性」が判断されると説明しています。また、個人のフリーランスへの委託では、取引条件の明示や報酬支払などの義務も確認が必要です。契約書だけでなく、日々の依頼方法まで含めて専門家に確認してください。
もう一つの注意点は、外部化による知識の空洞化です。顧客理解、判断理由、品質基準は自社に蓄積し、作業だけを外へ出す。これが「外注」と「Hub Model」を分ける線です。
関連する考え方
経営者が抱えている仕事を手放す順序は、ダン・マーテルの「時間を買い戻す」経営と相性がよい考え方です。まず低価値・反復的な仕事を移し、空いた時間を成長に使います。
また、少人数で速く動く組織設計については、ナヴァル・ラヴィカントの「直接話せる関係」も参考になります。人数の多さではなく、意思決定と情報伝達の距離を短くするという点が共通しています。
まとめ:採用の前に、接続方法を設計する
Hub Modelの本質は、社員を持たないことではありません。必要な能力を最適な形でつなぎ、経営者が顧客と成長に集中できる構造をつくることです。
次に採用を考えたときは、その仕事が継続的な中核業務なのか、成果単位で専門家と組める仕事なのかを一度分けてみてください。組織図を増やす前に接続方法を設計すると、固定費と管理負担を抑えながら、必要な専門性を早く取り込めます。
出典:Multiply Your Success 第298回(2026年2月23日公開)、ザ・プラクティカル・マジック・オブ・ザ・ファイブ・アワー・ワークデイ(The Practical Magic of the 5-Hour Workday)、EdgemontによるQOL Medical取引発表、厚生労働省「労働者とは」。
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