NASA、南極スウェイツ氷河の海面上昇寄与を再推計 接地帯の融解で従来モデルの約2倍も
NASAのジェット推進研究所(JPL)は2026年10月20日、南極・スウェイツ氷河の将来を計算した新研究を紹介した。氷河が海底から離れて海に浮き始める「接地帯」を従来より現実に近い形で再現すると、2100年までの海面上昇への寄与は、一部の従来推計の約2倍に達する計算結果が出た。ただしこれは実測された将来の海面上昇ではなく、特定の条件を置いたシミュレーションだ。原著論文は10月12日付の学術誌『Nature Communications』に公表されている。

氷河の「境界線」ではなく幅のある「接地帯」を計算
陸上を流れる氷河は、海岸に近づくと海底に接した状態から水に浮かぶ状態へ移る。従来の多くの計算は、この移り変わりを一本の接地線として近似してきた。一方、高分解能の衛星観測では、潮汐のたびに海水が陸側の氷の下へ入り込み、氷を一時的に持ち上げる動きが見つかっている。研究チームは接地線を固定的な線ではなく、幅およそ2~5キロメートルの融解を伴う接地帯として表現した。
1996~2023年の観測記録と比較
チームは氷の厚さ、移動速度、接地線の位置という異なる観測情報を用いて、過去の氷河の後退を再現できるか検証した。NASAの解説によると、接地帯を含むモデルでは、含まないモデルよりも過去の衛星観測との一致度が約4倍改善した。ただし、観測との適合度が上がったことと、将来予測が必ず当たることは同義ではない。海底地形や海水温の変化など、残る不確実性もある。

2100年までに最大30±6ミリという意味
論文の計算では、スウェイツ氷河単独の寄与として、2100年までに世界平均海面を最大30±6ミリ上昇させるケースが示された。これは約3センチメートルで、地球全体の海面上昇の総量ではない。研究者らは、将来の追加的な気候温暖化を与えず、接地帯の融解過程の影響を切り分けた条件でも、従来の一部の見積もりより大きな寄与が出ると分析した。数値はモデル条件によって変わるため、「2100年に必ず3センチ上昇」と読むのは誤りだ。
2038年という年は確定的な崩壊時期ではない
論文では、一部の条件下で氷河が現在の海底の支えから早ければ2038年に離れる可能性も示した。ここでいう「離れる」は計算上の特定の地形的な固定点からの離脱を指し、南極全体の氷がその年に崩壊するという主張ではない。モデルがどの地形・融解条件に依存しているかを併記する必要がある。
海水侵入が重要な理由
暖かい海水が氷の下に入り込むと、氷の底面が融け、接地状態が弱くなる。氷河が海底の高まりに支えられる力が失われると、陸上の氷が海へ流れる速度が変化しうる。海面上昇に直接関わるのは、もともと陸上にあった氷が海洋に加わることだ。浮遊する海氷面積の増減とは区別しなければならない。
日本の沿岸と研究への意味
遠い南極の氷河でも、海洋に加わる水は世界の海面水位に関わるため、日本を含む沿岸地域の長期計画と無関係ではない。ただし地域の海面変動は、海流・地盤変動・大気などの影響も受ける。今回の最大30±6ミリを特定の日本の都市の浸水高へそのまま読み替えることはできない。今後は接地帯の高頻度観測や海底地形データの改善が重要になる。
今後の検証点
研究の価値は「より大きい数字が出た」点だけではなく、従来の境界の扱いが現実の氷河の動きを十分に再現できていなかった可能性を示したことにある。別の数値モデルで同じ結論が得られるか、新たな衛星・海洋観測で支えとなる海底地形をどこまで確定できるかが次の焦点だ。
一次資料・論文
NASA JPL(2026年10月20日)『NASA Study Refines Projections for Thwaites Glacier』:https://www.jpl.nasa.gov/news/nasa-study-refines-projections-for-thwaites-glacier/
Poinelli, M. et al.(2026年10月12日)『Sea-level contribution from Thwaites Glacier doubles in an observation-constrained ice-sheet model』Nature Communications: https://www.nature.com/articles/s41467-026-77976-1
掲載画像:NASA/JPL・NASA Earth Observatoryの資料写真。各画像のalt・キャプションに撮影年、原出典、権利表記を付した。





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