
EU公共調達法案、「欧州優先」を明文化 日本企業はGPA適用範囲の確認が重要に
欧州委員会は2026年9月9日、EU公共調達法案(Public Procurement Act、COM(2026) 590)を提案した。EUの公共調達ルールを一本化し、価格だけでなく品質、供給網の強靱性、経済安全保障、「欧州優先」を入札判断に組み込む枠組みだ。現時点では欧州委員会の立法提案であり、成立・施行済みの法律ではない。
EUの公共調達は域内GDPの約15%を占める。法案は現在の3つの2014年指令を、採択された場合に単一の直接適用される規則へ置き換える内容で、今後は欧州議会とEU理事会で審議される。
【画像】ブリュッセルの欧州委員会本部前に掲げられたEU旗(撮影:Sébastien Bertrand/Wikimedia Commons/CC BY 2.0、2010年)
EU公共調達法案とは――3指令を単一規則へ
提案の狙いは、公共契約、公益事業調達、コンセッションに分かれていた制度を整理し、27加盟国をまたぐ入札手続きの複雑さを減らすことにある。欧州委員会は公共調達を単なるコスト削減手段ではなく、産業競争力、環境・社会政策、イノベーション、供給網の安全保障を支える政策手段として位置付け直している。
価格だけで決めない――品質は原則30%以上
Article 98は、原則としてBest Price-Quality Ratio(最良の価格・品質比)で契約を評価し、品質基準を総評価点の少なくとも30%、労働集約型契約では少なくとも50%とする。技術的価値、環境・気候、社会面、イノベーション、サイバーセキュリティ、供給網の強靱性などが評価要素になり得る。
ただし同条には、仕様や契約履行条件などで品質を確保できる場合の例外規定も置かれている。したがって「全案件で必ず30%・50%」と断定するのは正確ではない。
「欧州優先」は、単純なEU企業限定ではない
最も注意が必要なのがChapter 5のEuropean preferenceだ。Article 73は、公共調達者が参加者をEUまたは国際協定上の「covered(対象)」となる事業者に限定したり、EUまたはcoveredの財・サービス・工事を一定割合求めたり、評価上の優遇を設けたりできる枠組みを提示する。
さらに、入札に含まれるEUまたはcoveredの財・サービス・工事の価値が総見積価値の50%未満である場合、公共調達者がその入札を拒否できる規定もある。ここを単純に「EU産が50%必要」と読むのは不正確だ。法案本文は「Union or covered」としており、EUが国際協定で市場アクセスを約束している対象も含めている。
日本企業への影響――GPA加盟でも案件ごとの確認が必要
日本はWTO政府調達協定(GPA)の締約者で、EU・日本EPAにも政府調達章がある。ただしEU公共調達法案のArticle 70は、GPA締約国の企業や財・サービスを自動的にすべてcoveredとするのではなく、その調達がEUのGPA上の約束の範囲に入り、適用される附属書などの条件を満たすことを求めている。
Article 71は、調達主体、対象となる契約内容、見積額と適用閾値などを基にcoveredかどうかを判断する仕組みを想定している。欧州委員会は、その確認のための無料オンラインツールを整備するとしている。
EUの政府・公共部門向け案件に参加する日本企業や、欧州企業のコンソーシアム、主要サプライヤーとして入る企業にとっては、企業の国籍だけでなく、案件のGPA・EPA上の対象範囲、製品・サービスの原産地、下請け構成まで確認する重要性が増す可能性がある。これはACIMA WORLD NEWSの分析であり、個別入札では法務・調達の専門確認が必要だ。
こうした海外規制や入札制度の変更を継続的に追う企業向けに、アシーマでは「海外情報リサーチサービス」を通じて、政府発表・法令案・現地報道を横断した調査を支援している。

提案は今後、欧州議会とEU理事会で審議される。写真はブリュッセルの欧州議会(撮影:Matthias v.d. Elbe/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0、2011年)
世界的な意味――政府調達が産業政策の前線へ
今回の提案が示すのは、公共調達が「最も安い商品を買う制度」から、産業基盤、供給網、サイバーセキュリティ、戦略的自律性まで扱う政策手段へ変わりつつあることだ。米中欧の産業競争が強まるなか、公共資金の使い方そのものが市場アクセス条件になっていく。
ACIMA WORLD NEWSの視点
日本企業にとって重要なのは、「Buy Europeanで締め出される」と単純化することでも、「日本はGPA加盟国だから影響はない」と考えることでもない。実務上の焦点は、個々の入札がどの国際約束の対象になり、企業・下請け・財・サービス・工事の原産地がどう判定されるかに移る。法案が立法過程で修正される可能性もあるため、条文と今後の欧州議会・EU理事会の審議を追う必要がある。
一次情報
欧州委員会:Proposal for a regulation on public contracts and concessions:https://single-market-economy.ec.europa.eu/publications/proposal-regulation-public-contracts-and-concessions_en
欧州委員会:COM(2026) 590 Public Procurement Act(PDF):https://single-market-economy.ec.europa.eu/document/download/59557310-3af0-426d-b6b6-0357b650065f_en?filename=Proposal%20for%20a%20Regulation%20-%20Public%20Procurement%20Act.pdf
WTO:GPA Parties and observers:https://www.wto.org/english/tratop_e/gproc_e/memobs_e.htm
WTO:GPA thresholds updated for 2026-2027:https://www.wto.org/english/news_e/news26_e/gpro_30jan26_276_e.htm
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