top of page

Kimi・DeepSeekがユーザー入力をClaudeへ転送 Anthropicが中国AI企業の「蒸留」と機微情報流入を報告

2 日前
読了時間: 5分

米AI企業Anthropicは2026年9月10日、最新の脅威インテリジェンスレポート「Detecting and countering misuse of AI: September 2026」を公開し、中国の複数AI企業による大規模な「蒸留」活動を報告しました。


今回の中国AIのClaude蒸留で特に注目されるのが、Moonshot AIの「Kimi」とDeepSeekです。Anthropicによると、両社は一部のユーザーリクエストを自社モデルで処理せず、ユーザーに知らせないままClaudeへ転送し、その応答や推論情報をモデル改善のために収集していました。


さらに、転送された入力には中国国有企業の内部コードや認証情報、人民解放軍(PLA)関連とみられる監視データ、ロシア国防省に関連する政府機関のデータベース認証情報など、機微な情報が含まれていたとAnthropicは説明しています。


ただし、「中国・ロシアの軍事機密そのものがClaudeへ流出した」と断定できる内容ではありません。今回確認できるのは、Anthropicが自社の観測に基づき、防衛・公安・国有企業に関連する機微情報や認証情報がClaude側へ転送された事例を報告した、というところまでです。



中国AIのClaude蒸留とは何が起きていたのか


蒸留自体は、より高性能な「教師モデル」の出力を使って別の「生徒モデル」を訓練する、一般的なAI開発手法です。問題は、Anthropicが今回「illicit distillation(不正な蒸留)」と呼ぶ、無断かつ大規模な能力抽出です。


Anthropicは、偽アカウント、盗まれたクレジットカードやAPIキー、プロキシサービスなどを使ってアクセス制限を回避し、Claudeの推論、コーディング、データ分析、エージェント機能などを抽出する活動を確認したとしています。対象としてAlibaba、Moonshot AI、DeepSeek、Zhipu(Z.ai)、Xiaomi、SenseTime、MiniMaxなど中国拠点のAI企業を挙げています。


今回のレポートで最大規模とされたのはAlibabaで、2026年5〜7月に1億5100万回を超えるやり取りが観測されました。一方、MoonshotとDeepSeekでは「モデル能力の抽出」に加えて、実際の顧客入力をClaudeへ転送していた点が大きな論点になっています。



Kimiでは「自分はKimiを使っている」と思ったままClaudeへ


Anthropicは、Moonshot AIがKimi利用者の一部リクエストを密かにClaudeへ転送し、Claudeの回答をKimiの回答としてユーザーに表示していたと報告しています。ある10日間では約30万件の顧客リクエストがAnthropicへ中継され、その大半がClaude Opusへ送られたとしています。


Moonshotは5,380件の不正アカウントからなるプロキシネットワークを使用し、その多くはシンガポールや日本から接続しているように見えたとされています。Anthropicが2026年5〜7月にMoonshotへ帰属させた蒸留関連のやり取りは、2,300万回を超えます。


Claudeのアイコン。Anthropicが中国AI企業による不正蒸留とユーザー入力転送を報告
Claudeのアイコン。画像:Wikimedia Commons / CC0。今回の記事はAnthropicの2026年9月脅威レポートに基づく検証記事です。

重要なのは、転送された入力の中身です。Anthropicによると、PLAに関係している可能性が高いと同社が評価した利用者が、成都の数百台の監視カメラ映像をKimiに読み込ませ、特定人物の行動分析を依頼していました。映像にはPLA施設、中国電子科技集団系の研究機関、国有企業の周辺に設置されたカメラも含まれていたとされています。


また、中国の大手国有企業のエンジニアがKimiを使って社内システムを構築する過程で、内部コードや複数の中国企業の稼働中の認証情報を入力していた事例も報告されました。Anthropicは、この利用者には入力がClaudeへ転送されていることを知る手段がなかったとしています。



DeepSeekではロシア国防省関連機関の認証情報も転送


DeepSeekについても、Anthropicは一部ユーザーのやり取りをClaude Opusへ密かに転送していたと報告しています。対象となったのは、Claude CodeやClaude Agent SDK、OpenCodeなどのコーディング環境からDeepSeekを利用していた一部ユーザーでした。


Anthropicによると、中国のテクノロジー企業社員がDeepSeekへ投入した内部文書、公安局向け事件管理システムを開発するエンジニアの入力に加え、ロシア国防省に関連する政府機関のデータを扱うIT担当者のリクエストもClaudeへ転送されました。この事例では、ロシア政府データベースの稼働中の認証情報が露出したとされています。


Anthropicが2026年7月の14日間にDeepSeekへ帰属させた蒸留関連のやり取りは、1,210万回を超えています。



「軍事機密が流出」は言い過ぎ 今回確認できる範囲


SNSでは「中国・ロシアの軍事機密がClaudeのサーバーへ流れた」といった強い表現も見られますが、現時点でそこまで断定するのは適切ではありません。


Anthropicが具体的に示しているのは、PLA関連と同社が評価した利用者の監視データ、中国公安システム関連の開発情報、中国国有企業の内部コードや認証情報、ロシア国防省関連政府機関のデータベース認証情報などです。これらは十分に重大なセキュリティ情報ですが、各データが法的・制度的に「軍事機密」に指定されていたことまでは確認できません。


また、今回の中心的な事実関係はAnthropic自身の調査報告です。Bloomberg系報道ではMoonshot AIはコメントを控え、DeepSeekとXiaomiには取材時点で回答がなかったとされています。したがって、各社の行為の認定については「Anthropicが報告・主張している」と明確に区別して読む必要があります。



日本企業にとっての問題は「どのAIに入力したか」だけではない


今回の報告が企業利用者に突きつける問題は、単純に「中国AIを使うべきか」という二択ではありません。利用者が選んだAIサービスの裏側で、入力データが別のモデルや第三者のルーティングサービスへ転送される可能性を、契約・設定・データフローまで確認する必要があるということです。


特に、ソースコード、APIキー、認証情報、顧客情報、未公開の財務データ、研究開発情報などをAIへ入力する企業では、「モデル名」だけではなく、実際の処理先、保存期間、学習利用、第三者提供、サブプロセッサーまで確認することが重要です。


海外AI企業や海外サービスの動向を一次情報まで確認する必要がある場合、アシーマでは海外情報リサーチを提供しています。



ACIMA WORLD NEWSの視点


今回のニュースの本質は、「中国AIがClaudeを参考にしていた」という競争上の問題だけではありません。ユーザーが信頼して入力した情報が、本人の認識しない場所へ送られ、そのやり取り自体がモデル学習資源として利用され得るという、AI時代のデータガバナンス問題です。


AIモデルの性能競争が激しくなるほど、利用企業は「どのモデルが賢いか」だけでなく、「入力したデータが最終的にどこへ行くのか」を確認しなければなりません。ACIMA WORLD NEWSは、Anthropicの追加開示、中国AI各社の反応、規制当局の動き、企業向けAIサービスのデータ処理方針の変化を追跡します。




一次情報・照合情報


Anthropic|Detecting and countering misuse of AI: September 2026(2026年9月10日)


Reuters|Anthropic disrupts Russian, Chinese AI campaigns targeting its Claude models(2026年9月10日)


国内既報:ITmedia NEWS(2026年9月11日)/TBS CROSS DIG with Bloomberg(2026年9月11日)


画像:Claude icon / Wikimedia Commons / CC0



海外企業・規制・AI市場の一次情報を、日本語で事業判断に使える形へ整理します。


最新記事

すべて表示

コメント

5つ星のうち0と評価されています。
まだ評価がありません

評価を追加

海外の一次情報を、日本語で。

海外ニュース、政府公開資料、研究論文、AI・テクノロジー、宇宙など、日本語ではまだ十分に紹介されていない情報を、株式会社アシーマが原文・一次資料から読み解いてお届けします。

Acima Intelligence

bottom of page