
サウジの「ホルムズ迂回路」まで寸断――世界的燃料危機、日本への影響は
イラン戦争の長期化によって、世界のエネルギー市場が新たな局面に入っています。
これまで原油価格の急騰を抑えてきた石油在庫や戦略備蓄が減少する一方、ホルムズ海峡を避けるために使われてきたサウジアラビアの代替輸送ルートにも障害が発生しました。
これは遠い中東や米国だけの問題ではありません。原油の大部分を輸入に依存し、その中でも中東への依存度が極めて高い日本にとって、今回の事態はガソリン価格だけでなく、電気・ガス、物流、化学製品、食品や日用品の価格にまで波及する可能性があります。
「価格を抑える緩衝材がなくなった」
米石油大手シェブロンのマイク・ワースCEOは9月、イラン戦争開始後の原油価格上昇を抑えてきた「バッファー」がほぼ使い果たされたとの認識を示しました。各国は戦略石油備蓄の放出などで供給不足を補ってきましたが、危機が長期化するほど、その余力は小さくなります。
つまり問題は、単に「原油が高くなった」ことではありません。価格がさらに上昇した場合に、それを吸収する手段が以前より限られていることです。
サウジが用意していた「ホルムズを通らない道」
ペルシャ湾岸からアジアへ原油を輸送する場合、通常はホルムズ海峡を通過します。しかし通航リスクが高まったため、サウジアラビアは国内を横断する東西パイプラインを使い、東部の油田地帯から紅海沿岸のヤンブー港へ原油を送り、ホルムズを迂回するルートを活用してきました。
ところが9月、攻撃を受けた東西パイプラインが停止し、紅海側からの積み出しにも大きな支障が生じました。Reutersの船舶データによると、ヤンブー港からの原油積み出しは9月16日以降確認されていません。
逃げ道だった紅海ルートも使えなくなった
この事態の意味は大きいと考えられます。ホルムズ海峡が危険になった際の重要な迂回路まで機能しなくなったからです。
サウジアラビアは再びペルシャ湾側からの輸出を増やしています。Reutersによると、9月13日の週には22隻のタンカーが計4200万バレルを積んでホルムズ海峡を通過しました。一部ではオマーン沖で船から船へ原油を積み替える「STS(Ship-to-Ship)」も拡大しています。
こうした方法によって原油の流れそのものは維持されていますが、輸送は複雑になり、保険・運賃などのコストも大きく上昇しています。
日本は世界でも特に影響を受けやすい
日本にとってホルムズ海峡は数ある石油輸送ルートの一つではありません。日本は原油輸入の大部分を中東に依存し、危機前には日本向け原油の7割強がホルムズ海峡を通過していました。
IEAによると、2025年には世界の海上石油取引の約4分の1に相当する日量約2000万バレルの原油・石油製品がホルムズ海峡を通過し、その約8割がアジア向けでした。日本は特にこのルートへの依存度が高い国の一つです。
それでも「日本からガソリンがなくなる」状況ではない
現時点で、日本国内の燃料が直ちに不足すると考える必要はありません。日本の石油会社は必要な原油の確保や代替調達を進め、政府も備蓄放出や燃料価格対策を実施しています。
したがって現在の日本については、「石油がなくなる危機」というより、「高いコストと大きなリスクを負いながら、必要な石油を確保し続けなければならない危機」と見る方が実態に近いでしょう。
日本ではガソリン価格だけを見ていてはいけない
原油から作られるのはガソリンだけではありません。軽油、灯油、重油、ジェット燃料に加え、ナフサなど化学産業の重要な原料も含まれます。
そのため原油価格の高騰が長期化すると、輸送費だけでなく、包装材、容器、部品、建材など石油化学製品のコストを通じ、食品や日用品を含む幅広い商品の価格へ影響が広がる可能性があります。
電気・ガスにも時間差で影響
LNGについては、日本の調達先がオーストラリアなどにも分散しているため、原油ほどホルムズ海峡への直接依存度は高くありません。
ただし、日本のLNG長期契約には価格が原油価格に連動するものが多くあります。原油価格の上昇が時間差でLNGの調達価格へ反映されれば、電力会社や都市ガス会社の燃料調達コストにも波及します。
本当の問題は「危機が長期化していること」
日本には国家備蓄があります。政府による燃料価格支援もあります。石油会社も代替調達を進めています。これらによって、これまで大規模な燃料不足は回避されてきました。
しかし危機が長引くほど、商業在庫を取り崩す、国家備蓄を放出する、別の産油国から調達する、ホルムズを避けて別ルートを使う、といった「時間を稼ぐ手段」の余力は減っていきます。今回、その一つだったサウジアラビアの東西パイプラインまで停止しました。
日本にとって次の焦点は何か
今後、日本への影響を見るうえで特に注目したいのは、ホルムズ海峡を通過するタンカーの数、サウジ東西パイプラインとヤンブー港の復旧、世界の原油・石油製品在庫、日本の備蓄・燃料価格対策、そして原油価格のLNG・電力価格への波及です。
現時点では、日本への原油供給そのものは続いています。明日突然ガソリンがなくなるような状況ではありません。
しかし問題は、「今日供給できるか」から「この状態をあと何カ月続けられるか」へ移りつつあります。ホルムズ海峡だけでなく、その迂回路まで不安定になった現在、日本にとって今回の世界的燃料危機は、単なる海外ニュースではなくなっています。
主な情報源
Reuters(2026年9月21日)、The Wall Street Journal(2026年9月22日)、International Energy Agency(IEA)「Strait of Hormuz」、日本銀行のエネルギー価格に関する公表資料などを基に構成。情勢は変化しているため、ACIMA WORLD NEWSでは引き続き日本への影響を追跡します。





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