EU理事会、新会社制度「EU Inc」で交渉方針 オンライン2日・最大100ユーロ、施行はまだ
欧州連合理事会(EU理事会)は2026年10月23日、スタートアップや成長企業の域内事業展開を容易にする共通会社制度「EU Inc」に関し、欧州議会との交渉に向けた理事会の立場を採択した。提案では、オンライン手続きにより最長2日、手数料最大100ユーロで設立できる枠組みを目指す。
ただし、10月23日に採択されたのは法案そのものではなく、理事会の交渉方針である。制度は現時点で施行されておらず、企業が今日から100ユーロで欧州共通会社を設立できるという意味ではない。
カバー写真は欧州委員会ベルレモン庁舎前のEU旗を撮影した資料写真で、2026年10月23日の会合を写したものではない。Photo: Amio Cajander / Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0。
EU加盟27カ国の法律に加わる「28番目」の選択肢
EUの各加盟国にはそれぞれ会社法があり、複数国に展開する企業は設立・株式・法務の手続きを国ごとに検討する必要がある。EU Incは27カ国の既存制度を廃止するのでなく、それらと並ぶ追加の共通枠組みとして提案されている。
新制度を選ぶ企業が域内単一市場で活動しやすくなることを目指すが、すべての規制や税制を自動的に一本化する制度だと受け取るのは早計だ。具体的な国内法との関係は今後も重要になる。
オンライン2日以内・最大100ユーロという設立目標
理事会の10月23日付発表は、EU Incを選択する企業がオンラインで2日以内、最大100ユーロの費用で登録できる制度設計を示している。時間と費用の削減は、拠点を増やすたびに手続きを求められる企業にとって大きな論点となる。
ただし、これは制度案の要件として目指す内容であって、実際に全加盟国でこの水準の設立ができるようになったという実績値ではない。導入時期や具体的な要件は法案の最終形に左右される。
株主名簿のデジタル化と「一度提出」の原則
理事会は電子的な株主名簿の仕組みを簡素化し、行政に同じ情報を繰り返し提出しなくて済む「一度限り」の原則やデジタル完結の実装を軽くする修正を盛り込んだ。電子手続きは設立だけでなく、その後の企業運営の負担も左右する。
企業が実務で使える制度になるには、株式情報の変更、登記の更新、当局間の情報連携が安定して機能することが必要になる。紙の書類を単に電子化するだけでは十分ではない。

従業員ストックオプションで人材獲得も後押し
EU Inc案には、成長企業が優秀な従業員を採用・維持しやすくするため、従業員向けストックオプション制度も盛り込まれている。給与以外で企業の成長成果を分かち合う仕組みは、国境をまたぐ人材採用で重要な役割を担う。
理事会は対象や保護措置の調整も提案し、従業員750人、年間売上高1億5,000万ユーロという小規模ミッドキャップの水準を説明している。適用の詳細は理事会と議会の交渉文書の最終確定を待つ必要がある。
マネーロンダリング対策など審査は残る
簡単に会社が作れることは、審査が不要になることを意味しない。理事会案では、マネーロンダリング、テロ資金供与やその他の犯罪に関係する懸念がある場合、加盟国が登記を拒否できる仕組みを明確化している。
国境を越える活動を促進しながら不正利用を防ぐ制度設計は、透明性や実効的な本人確認との両立が課題となる。設立の容易さだけで制度全体を評価することはできない。
雇用参加ルールは登記国を基本に適用
理事会の交渉方針では、EU Inc企業に適用される従業員参加のルールは、原則として登記上の本拠地がある加盟国の制度に従う。一方、別の加盟国で従業員数が一定の基準を上回る場合に配慮する選択的な仕組みも提案されている。
つまり、共通会社制度の創設は域内の労働法や雇用ルールがすべて同一になることを意味しない。実際の多国籍事業の設計では、国別の雇用規制を確認する必要が残る。
法改正は未成立:欧州議会との交渉が次の段階
10月23日の合意は理事会側の交渉権限を正式に固めた段階であり、欧州議会が立場を採択した後に両者の交渉が始まる。現時点でEU Incという新しい会社形態の設立サービスが稼働したわけではない。
理事会案は加盟国に規則の実施に向け21カ月の準備期間を想定している。ただし、これは今から21カ月後に必ず利用開始できるという確定日程ではなく、成立する法文と実際の適用時期を区別する必要がある。
日本企業にとっての意味と今後の注目点
欧州に進出する日本企業やスタートアップにとって、域内の複数国で共通した会社形態を利用できれば、資金調達や現地拠点の管理に影響が生じ得る。ただし日本法人の直接的な利用資格、法人税・社会保険・ビザの扱いが簡素化されるかは、今回の発表だけから確定できない。
次に注目するのは、欧州議会の修正案、理事会との合意、最終法文、加盟国ごとの実施要件である。企業は設立速度だけでなく、資本・ガバナンス・従業員権利・納税の実務まで見て判断する必要がある。
一次資料・関連記事・写真の権利表記
・EU理事会・2026年10月23日公式発表:https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2026/10/23/eu-inc-council-adopts-position-on-a-new-eu-corporate-law-for-innovative-companies/
・EU理事会・交渉方針本文(リンクは公式発表内):https://data.consilium.europa.eu/
・関連AWN:EU理事会がデータ保護・Cookie・サイバー報告で示した交渉方針:https://www.acimacorporation.com/post/eu-council-digital-omnibus-gdpr-cookies-cyber-2026
・カバー写真:Amio Cajander、CC BY-SA 2.0:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Banderas_europeas_en_la_Comisi%C3%B3n_Europea.jpg
・本文写真:acediscovery、CC BY 4.0:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Berlaymont_EU_Building-Brussels.jpg





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