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【ALife特集】生命は数式から生まれるのか Bert ChanのLeniaと「進化する仮想生物」の研究

4 日前
読了時間: 4分

【人工生命/ALife研究特集】コンピューターの数式から、動物のように動き、変化する形が生まれる。Bert Wang-Chak ChanのLeniaと、共同研究によるFlow-Leniaは、生命の自己組織化や進化の条件を探る計算科学の実験だ。その成果と限界を査読論文などの一次資料から読み解く。

色彩豊かな計算上の生命様パターンを表した生成イメージ
LeniaやFlow-Leniaをイメージした生成イメージ(AI生成/AWN編集部制作)。実際のLeniaシミュレーション画面や研究データではない。

 

 

Leniaとは何か:生命のような姿が数学的ルールから現れる

 

Bert Wang-Chak Chanが開発したLeniaは、連続値のセル・オートマトンと呼ばれる数学的なシミュレーション体系だ。格子状の空間で単純な更新規則を繰り返すと、丸い形や触手のような構造をもつ、動物に似たパターンが現れる。

目を引くのは、個々の形を人が一枚ずつ描くのではなく、共通する計算規則の中から多様な構造や動きが形成される点である。ただし、画面上のパターンは生物学的細胞ではない。生命らしい行動が見えることと、生物としての生命が確認されたことは違う。

 

 

2020年の拡張研究:自己複製と「仮想真核生物」

 

Chanは2020年公表の『Lenia and Expanded Universe』で、Leniaを多次元、多カーネル、多チャネルへ拡張した実験を報告した。遺伝的アルゴリズムを使った半自動探索から、自己複製、摂取に伴う成長、放出、内部の役割分化などに似た現象を記述している。

論文に登場する『virtual eukaryotes(仮想真核生物)』も、計算上の構造が複雑な分業を示したことを表す呼称であり、実際の真核生物を作ったという意味ではない。

 

 

Flow-Lenia:複数の仮想生物が同じ世界で関わる仕組み

 

Leniaの初期モデルは、複雑なパターンが見つかるパラメータ領域が狭く、パターンごとに異なる計算規則が必要になるという課題を抱えていた。Flow-Leniaは、質量保存とパラメータの局所化を導入し、この制限に取り組む。

2023年のALIFE国際会議で発表された研究では、更新規則のパラメータ自体をシミュレーションの内部で変化する仕組みに組み込み、異なる性質をもつパターンが同じ空間で相互作用できるモデルを提案した。2025年5月に『Artificial Life』誌へ掲載された査読論文は、複数種を扱うシミュレーションと、創発的な進化ダイナミクスの分析を報告している。

Flow-Leniaの論文はErwan Plantec、Gautier Hamon、Mayalen Etcheverry、Bert Wang-Chak Chan、Pierre-Yves Oudeyer、Clément Moulin-Frierの共同研究であり、Chan単独の成果ではない。

 

 

「進化」が確認されたことと無限に進化することは異なる

 

研究者は、システム内に生じるパターンの変化や相互作用を測定し、進化的活動を分析した。これは、あらかじめ決めた個体だけを表示するモデルから、環境内で多様なふるまいが生じ得るモデルへ進んだことを意味する。

一方で、無制限に新しい複雑さが生まれ続ける『開放型進化(open-ended evolution)』が完成したと証明されたわけではない。研究論文は、この目標へ近づくための枠組みと、その内部で観察された現象を示している。

 

 

AIが人工生態系を探索する研究も進む

 

2025年5月には、Flow-Leniaの広い環境で生じる集団的な振る舞いを、好奇心駆動型のAIによって探索する研究のプレプリントも公開された。ランダム探索と比較してより多様な動態を見つけ、複雑な集団の組織化を分析したと報告している。

こちらは2025年公開のプレプリントに基づく報告であり、査読済みの2025年『Artificial Life』掲載論文とは、証拠の位置づけを区別する必要がある。

 

 

生命の起源・地球外生命探査への意味

 

人工生命の研究は、DNAや細胞膜を用いた生命の合成と、数学的な世界で生命らしい性質を再現する方法の双方から『生命にとって何が本質か』を問い直す。Leniaは後者に属し、自己組織化、多様性、相互作用、進化の条件を切り分ける手掛かりを提供する。

ただし、Leniaが動くからといって、宇宙にデジタル生命が実在する証拠にはならない。地球外生命探査への貢献は、現時点では生命の条件を考えるための理論的・方法論的示唆である。

 

 

一次資料と今後の焦点

 

今後の課題は、変化の多様性を長期間保てるか、自己複製と選択の仕組みがどこまで内在化されるか、外部から設計した目標なしに新しい適応行動が現れ続けるかだ。今回の記事は2020〜2025年の主要な研究成果を読み解く解説特集で、2026年10月に新発見が発表されたという速報ではない。

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